グール
グール · ガウル · シッラー
イスラーム以前のアラビアの荒野の霊で、美しい女に化けて旅人を誘い、墓を暴いて死体を食う。驢馬の脚で見分けられるという。『千夜一夜物語』のフランス語訳を通じてヨーロッパに伝わり、墓地の食屍鬼として定型化した。
解説
概要
民間伝承において、グール(アラビア語のグールに由来)は、墓地と人肉の摂取にしばしば結びつけられる、悪魔に似た存在あるいは怪物的な人型である。
グールの観念は、イスラーム以前のアラビアの宗教に発する。現代のフィクションは、しばしばこの語を特定の種類の怪物を指すために用いる。
なお本サイトの分類では、アブラハムの体系に含めて扱う。
語
「グール」は、「捕らえる」「掴む」を意味する語根に由来する。
「ガーラ」。 「不意に襲う」「奪い去る」。
旅人を襲う。 荒野で人を捕らえ、食うものとして語られた。
姿と習性
変身。 女の姿、とりわけ美しい女の姿をとる。
驢馬の脚。 ただし脚が驢馬のものであるため、これで見分けられるという。
呼ぶ。 旅人の名を呼び、道から誘い出す。
墓を暴く。 墓を掘って死体を食う。
シッラー。 女のグールは「シッラー」と呼ばれる。
イスラーム以前
グールは、イスラーム以前のアラビアの荒野の霊である。
砂漠の危険。 隊商路の危険——道に迷うこと、盗賊、飢渇——が、この存在として語られた。
ジンの一種として。 イスラーム化ののち、ジンの一種として位置づけられた。
ハディース。 「グールはいない」とするハディースがある一方、その存在を前提とする伝承もある。
否定と存続。 公式の教えが否定しても、民間の観念は残った。
ヨーロッパへの伝播
『千夜一夜物語』。 ガランのフランス語訳(1704〜17年)に、グールの物語が含まれた。
「アミーナと屍食鬼」。 夜な夜な墓場で屍を食う妻の物語が、ヨーロッパに強い印象を与えた。
ヴァテック。 ウィリアム・ベックフォード『ヴァテック』(1786年)が、この観念を英文学に導入した。
ラヴクラフト。 20世紀のホラー文学において、グールは墓地に住む食屍の怪物として定型化した。
ゲーム。 20世紀後半以降、ゲームとファンタジーの定番の怪物となった。
原型からの乖離。 変身する女の霊が、腐乱した屍食の怪物になった。
図像と象徴
本サイトが掲げるのは、《アミーナと屍食鬼》を描いた図である。
関わる伝承
ジンの一種。シッラーは女のグール。
文化的足跡
「グール」は、今日の英語において「墓荒らし」「他人の不幸を喜ぶ者」を意味する語としても用いられる。
なおユダヤ教・キリスト教・イスラームは今日も信仰されている生きた宗教であり、本項の記述はその伝承と観念の歴史に関する学術的な整理である。