エッラ
エラ · イッラ · Erra
アッカドの疫病と混乱の神で、ネルガルと同一視される。前8世紀の『エッラ叙事詩』では、マルドゥクの玉座を奪って世界に混乱を放ち、助言者イシュムに宥められる。この詩を家に置く者は疫病から守られるとされた。
解説
概要
エッラ(Erra、イッラとも)は、前8世紀の「叙事詩」から知られるアッカドの疫病の神である。エッラは混乱と疫病の神で、政治的な混迷の時期に責めを負う。ある時点でネルガルと同一視された。
エッラ叙事詩
現代に『エッラ叙事詩』の題を与えられた作品において、書き手カブティ・イラーニ・マルドゥクは——ダビビの子孫であると言う——本文に続く奥書で、自らを、エッラ自身がその本文を啓示した幻の夢の単なる書き取り手として示す。
詩は呼びかけで始まる。エッラは配偶者マミートゥムとともに落ち着かず眠っているが、助言者イシュムと、天と地の子である「七柱」(シビッティ)に起こされる。七柱は「比類なき勇士」であり、エッラに戦を促す。
エッラはバビロンへ赴き、マルドゥクに、その衣が汚れていると告げる。マルドゥクが工人を呼びに玉座を離れると、エッラは代わって座り、世界に混乱を放つ。都市が滅び、人々が互いに殺し合う。イシュムがついにエッラを宥め、破壊は終わる。
詩の末尾では、この詩を家に置く者は疫病から守られると記される。叙事詩そのものが護符として機能した。
図像と象徴
本サイトが掲げるのは、疫病を退ける護符である(前800〜612年)。
疫病の神が自らの詩を啓示するという構造が、この神を規定する。詩は災厄の記録であると同時に、災厄を防ぐ呪物である。
七柱(シビッティ)を従える点も特徴的である。シビッティは天と地の子である七柱の戦神で、疫病と戦争をもたらす一群である。
前8世紀という成立年代は、アッシリアの勢力拡大とバビロニアの混乱の時期にあたる。詩が描く都市の破壊は、実際の戦乱の記憶を反映するとみられる。
関わる神格・伝承
ネルガルと同一視される。助言者はイシュム、従者はシビッティ。配偶者はマミートゥム。
文化的足跡
『エッラ叙事詩』は、アッシリア・バビロニアの各地から多数の写本が出土しており、古代において最も広く読まれた文学作品の一つであったことを示す。護符として家に置かれたという記述が、その理由を説明する。