ダプニス
ダフニス · Daphnis
シケリアの美しい牧童でヘルメースの子。牧歌を発明した。ニュンペーへの誓いを破って盲目にされ、その苦しみを歌って死んだ。テオクリトス『牧歌』第1歌の主題。
解説
概要
ダプニス(Δάφνις)は、ギリシア神話の人物である。シケリアに住む羊飼いあるいは牛飼いで、美少年の牧童とされる。
ヘルメースとシケリアのニュンペーの子。あるいはヘルメースの子ではなく恋人であったとする説もある。牧神パーンやプリアーポスにも恋された。
神話・物語
シケリアのヘーライオン山で生まれた。名は月桂樹(ダプネー)に由来する。月桂樹の多い場所で生まれたため、あるいは生まれてすぐ月桂樹の茂みに棄てられたためという。ニュンペーたちに養育され、成長すると多くの牛の群れを世話して暮らした。その牛は、ヘーリオスの牛の兄弟であったといわれる。
牛の世話をする傍ら、牧歌を発明して多くの詩や歌を作った。
ニュンペーの一人に愛され、他の女と交わらないと誓ったが、王女に酔わされて誓いを破った。怒ったニュンペーは彼を盲目にした。ダプニスは牧歌を歌って慰めを求めたが、ついに崖から落ちて死んだ——あるいはヘルメースが天に上げたともいう。
テオクリトス『牧歌』第1歌は、この死を主題とする。恋の病に苦しむダプニスをアプロディーテーが訪れ、彼は神々と自然に別れを告げて死ぬ。
図像と象徴
固有の図像は伝わらず、本サイトも主画像を掲げない。ただしダプニスにパーンが笛を教える場面の彫像(ヘレニズム期の型)は、ローマ期の模刻が多数残る。
この人物を規定するのは、牧歌の発明者という位置である。牧人の歌という文学の一形式が、特定の人物の発明に帰されている。テオクリトス以降、牧歌の伝統においてダプニスの名は繰り返し呼ばれた。
誓いを破って盲目になるという筋も見逃せない。牧歌の創始者が、恋の誓いの違反によって視力を失い、その苦しみを歌う。歌の起源が苦しみに置かれている。
関わる神格・伝承
父はヘルメース。パーンとプリアーポスに愛された。
牧歌の主題としては、ロンゴス『ダプニスとクロエー』(2〜3世紀)が最もよく知られる。ただしこの小説の主人公は、神話のダプニスとは別人である。
文化的足跡
ウェルギリウス『牧歌』第5歌は、ダプニスの死と神格化を歌う。ラヴェル『ダフニスとクロエ』(1912年)はロンゴスの小説に基づく。
日本語圏では、ロンゴスの小説を通じて「ダフニス」の名が知られている。