バゲーン
バゲーン · ボアガーン · Buggane
マン島の巨大な鬼のような、姿を変える存在。黒い仔牛や馬の耳や蹄を持つ人の姿で現れ、水を渡れず聖なる地に立てない。聖トリニアンに船を救われたことを恨み、その礼拝堂の屋根を三度剥ぎ取ったと伝えられる。
解説
概要
バゲーン(ボガーンとも)は、マン島の伝承に語られる、巨大な鬼のような存在である。スカンディナヴィアのトロールに近いとする見方もある。ケルト神話の体系に含めて扱う。
伝承
バゲーンは姿を変える悪しき存在で、大きな黒い仔牛や、馬の耳や蹄を持つ人の姿で現れる。教会の屋根を剥ぎ取れるほど大きい。本来の姿は、粗い黒い毛のたてがみに覆われ、松明のような目と鋭く光る牙を持つとされ、牛の角と光る目と大きな歯を持つ巨人として語られることもある。魔的な存在であるため、水を渡ることも、聖なる地に立つこともできない。
妖精たちに呼ばれて、彼らの機嫌を損ねた人を罰することもあった。グレン・メイのバゲーンは、日が沈むまでパン焼きを先延ばしにした怠け者の主婦を滝へ投げ込もうとしたが、主婦はエプロンの紐を切って逃れたという。
聖トリニアン教会
最もよく知られた話では、あるバゲーンが思いがけずアイルランド行きの船に乗り込んでしまった。マン島へ戻ろうとしたバゲーンは嵐を起こし、船を岩だらけの海岸へ導いたが、船長が聖トリニアンに祈り、礼拝堂を建てると誓ったため、聖人は船を無事ピールの港へ導いた。怒ったバゲーンは、聖トリニアンにはマン島で完全な教会を持たせないと叫んだ。礼拝堂が建てられると、人々が三度屋根を載せ、そのたびにバゲーンが剥ぎ取った。
のちに一人の仕立て屋が、その教会のなかで一晩のうちにズボンを一着縫い上げてみせると賭けをした。夜更けに床からバゲーンが現れたが、仕立て屋は最後の一針を縫い終えて逃げ出した。怒ったバゲーンは自分の頭を引き抜いて投げつけたが、頭は墓地の塀に当たって砕けたという。マラウの聖トリニアン教会は、今も屋根のない廃墟として残っている。
フィン・マックールとの戦い
マン島の伝説では、アイルランドの巨人フィン・マックールがマン島に渡り、クレグニーシュの近くに住んだ。バルールのバゲーンが戦いに来ると、フィンの妻はフィンを赤子に見せかけて揺りかごに入れた。バゲーンはその大きさに驚いて去ったが、のちに二人は日の出から日没まで戦い、バゲーンが勝った。海の上を歩いてアイルランドへ逃げるフィンに、バゲーンが歯を引き抜いて投げつけると、歯は海に落ちてチキン・ロックになったという。
図像と象徴
主画像は、エドワード・キャロウ『フェノゼリーとマン島のその他の伝説』(1882年)の挿絵である。
系譜と関係
トロールに近いとされる。マン島の水の馬カビル・ウシュティとは別の存在である。
なおケルトの伝承は今日も語り継がれており、本項の記述はその伝承に関する学術的な整理である。