アイダ・ウェド
アイダ・ウェド · アイダ・フエド · アイド・フエド
ハイチのヴードゥーの虹の女神で、白蛇ダンバラの女性の対応者。フォンのアイド・フエド(ダン)に遡り、マウを背に乗せて世界を運んだのち、海底で自らの尾をくわえて輪をなし大地を支える。鉄が尽きれば世界が沈むという。
解説
概要
アイダ・ウェド、アイダ・ウェド(アイダ・フエド、アイダ、アギダとも)は、ハイチのヴードゥーにおける強力なロアであり、アフリカ全域(かつてのダホメ王国/ベナン、トーゴ、ガーナ南東部を含む)とカリブ海地域で敬われる、アフリカ系ディアスポラの宗教の一部をなす。
アイダはダンバラを男性の対応者とし、ときに二柱は夫婦として解されるが、しばしば男女の両相を持つ一つの霊とみられる。この双つの神は、合わせてダンバラ・アイダと呼ばれることがある。
なお本サイトの分類では、アフリカの体系に含めて扱う。
職能
虹の女神である。虹は天と地をつなぐ橋であり、この女神はその通路を体現する。
豊穣、富、そして風にも結びつけられる。虹が現れることは吉兆とされた。
ダンバラとの対。 ダンバラが白い蛇であるのに対し、アイダ・ウェドは虹の蛇である。二匹が絡み合うことで世界が保たれる。
蛇が自らの尾を噛む輪の図像は、この対を表すとされる。
フォンのアイド・フエド
ハイチのアイダ・ウェドは、フォンのアイド・フエド(ダン)に遡る。両者は同一の存在の異なる地域における姿であり、Wikidata においても同一項目として扱われる。
フォンの伝承において、アイド・フエドは虹の蛇であり、マウが世界を創ったときその背に乗せて世界を運んだ。マウが山を作り谷を刻んだのは、この蛇の身体が動いた跡である。
創造ののち、マウは大地が重すぎることに気づき、アイド・フエドに大地の下で輪をなして支えるよう命じた。蛇は自らの尾を口にくわえ、海のなかで輪をなしている。
蛇は熱を嫌うため海の底に住み、海の猿たちが運ぶ鉄を食べて生きる。鉄が尽きれば空腹のあまり自らの尾を食べはじめ、そのとき大地の支えが失われて世界は海に沈むという。世界の終わりが鉄の枯渇として語られる点は、ダホメが鉄の交易で栄えたことを反映するとする解釈がある。
蛇が身を動かすと地震が起こる。
自らの尾を噛む蛇という図像は、ギリシアのウロボロス、北欧のヨルムンガンドと同型であるが、これらの類似が接触によるものか偶然の一致かは確定していない。
図像と象徴
本サイトが掲げるのは、ダンバラのヴェヴェ(儀礼の図形)である。二匹の蛇が絡み合う姿を表す。
虹という自然現象が神格化されている点が、この女神を規定する。天と地を結ぶ弧が、そのまま神の姿である。
関わる神格・伝承
ダンバラの配偶者。アイド・フエドと同源。
キリスト教の聖母マリア(マター・ドロローサ)と習合した。
文化的足跡
ハイチのヴォドゥにおいて、ダンバラとアイダ・ウェドの対は、最も広く祀られるロアの一つである。
なおこれらの宗教は今日も信仰されている生きた伝統であり、本項の記述はその神格の伝承と図像に関する学術的な整理である。