アーラシュ
アーラシュ · アーラシュ・エ・キャマーンギール · エレフシャ
イランとトゥーラーンの国境を一本の矢で定めた弓の名手。ダマーヴァンド山の頂から自らの命の力をすべて込めて矢を放ち、矢はオクサス川のほとりまで飛んで、彼の体は砕け散ったという。『アヴェスター』では射手エレフシャとして現れ、ティールガーンの祭と結びつく。
解説
概要
弓取りアーラシュ(Āraš-e Kamāngīr)は、イランの神話と歴史伝承に語られる弓の名手である。イランとトゥーラーンの国境を、自らの命を込めて放った一本の矢で定めたとされる。
物語
ビールーニーらの伝えによれば、トゥーラーンの王アフラースィヤーブはイランを包囲したのち、和議に応じた。その条件は、イランの弓の名手が一本の矢を放ち、矢の落ちた場所を国境とするというものであった。選ばれたアーラシュはダマーヴァンド山(あるいはアルボルズ山)の頂に登り、衣を脱いで体に傷がないことを示して、「わたしの体には傷も病もない。しかしこの矢を放てば、わたしは死ぬ」と告げた。そして自らの命の力のすべてを矢に込めて放った。矢はオクサス川(アム・ダリヤ)のほとりまで飛び、胡桃の大木に突き刺さった。矢を放ったその瞬間、アーラシュの体は砕け散ったという。
ティールガーン
矢が放たれた日は、ティール月の十三日の祭ティールガーンとされる。ティールは、雨をもたらす星の神ティシュトリヤのことで、その名を持つ月である。ティールガーンは、今日もゾロアスター教徒やイランの一部の人々のあいだで祝われている。
アヴェスターのエレフシャ
『アヴェスター』のティシュトリヤ讃歌(ヤシュト8)は、星の神が飛ぶ速さを、「アーリヤの人々のうち最も速い射手」エレフシャが放った矢にたとえる。このエレフシャが、のちのアーラシュにあたる。
図像と象徴
本サイトが掲げるのは、テヘランのサアダーバード宮殿にある、弓を引くアーラシュの像である。
系譜と関係
アフラースィヤーブと和議を結んだ。ティシュトリヤと矢の主題を共有する。
文化的足跡
1959年、詩人シアーヴォシュ・キャスラーイーは長い詩『弓取りアーラシュ』を発表した。物語を現代のイランの文脈で語り直したこの詩は広く読まれた。アーラシュは、今日もイランで男子名として用いられる。
なおゾロアスター教は今日も信仰されている生きた宗教であり、本項の記述はその伝承に関する学術的な整理である。