アシュ・シー
アシュ・シー · アシュ・シーゼ · シー
アイルランドとスコットランドのゲールの伝承で、塚(シー)に住む超自然の人々。神々トゥアハ・デ・ダナーンの後身とされ、ミレー族に敗れて地上を譲り、古墳や丘の塚に退いたという。名を呼ぶと注意を引くため「善き人々」と婉曲に呼ばれた。
解説
概要
アシュ・シー(アシュ・シーゼとも)は、アイルランドとスコットランドのゲールの伝承に語られる、塚に住む超自然の人々である。名は「シーの人々」を意味し、シーとは彼らが住むとされる古い塚、そして異界への入口を指す。かつての神々トゥアハ・デ・ダナーンの後身とされ、英語で妖精と訳されることの多い存在の、アイルランドにおける総称である。ケルト神話の体系に含めて扱う。
塚に退いた神々
中世アイルランドの『アイルランド来寇の書』によれば、トゥアハ・デ・ダナーンは、ゲール人の祖先とされるミレー族との戦いに敗れた。敗れた神々は地上をミレー族に譲り、地下の塚を住処として得たという。物語『シーの奪取』などでは、塚の割り当てを行ったのはダグザとされる。
これらの塚は、実際にアイルランド各地に残る新石器時代の墳墓や環状の土塁である。前3200年頃に築かれた通路墓ニューグレンジは、オェングスの住処とされた。キリスト教が広まるなかで、かつての神々は悪魔とも聖人ともつかない中間の存在として位置づけられ、しだいに小さな妖精の姿へと変わっていった。
名を呼ばない
アシュ・シーを直接その名で呼ぶことは避けられた。名を口にすれば、その注意を引いてしまうからである。人々は「善き人々」「隣人たち」などと遠回しに呼んだ。
妖精の道と一本の木
アシュ・シーは塚と塚を結ぶ道を通るとされ、その道の上に家を建ててはならないと言われた。野にぽつんと立つサンザシの木は彼らのものであり、伐ってはならない。1999年には、クレア州のラトゥーンで計画されていた道路の路線が、語り部エディー・レニハンの訴えを受けて、こうした一本のサンザシを避けるように変更された。
図像と象徴
本サイトが掲げるのは、ジョン・ダンカンの《シーの騎手たち》(1911年)である。
系譜と関係
トゥアハ・デ・ダナーンの後身であり、バンシーやレプラホーンもその一種とされる。
文化的足跡
英語の「バンシー」「レプラホーン」は、いずれもアシュ・シーの一種を指すアイルランド語に由来する。
なおケルトの伝承は今日も語り継がれており、本項の記述はその伝承に関する学術的な整理である。