アンドフリームニル
アンドフリームニール · アンドリームニル · Andhrímnir
ヴァルハラの料理人。日ごとに獣セーフリームニルを屠り、大釜エルドフリームニルで煮る。ヘイズルーンの乳から蜜酒も作る。
解説
概要
アンドフリームニル(古ノルド語 Andhrímnir、「煤にさらされた者」)は、北欧神話でアース神族とエインヘリャルのために料理をする者である。
日ごとにヴァルハラで獣セーフリームニルを屠り、自らの大釜エルドフリームニルでこれを煮る。夜になるとセーフリームニルは生き返り、翌日また食べられる。
牝山羊ヘイズルーンの乳から、アース神族の蜜酒を作るのもこの者である。
登場する物語
エッダ詩『グリームニルの言葉』第18節が典拠である。アンドフリームニル、セーフリームニル、エルドフリームニルの三つの名が並べて挙げられ、料理人と獣と大釜がそろって語られる。
固有の物語はこれ以上伝わらない。行為として記録されているのは、屠ること、煮ること、そして醸すことである。
図像と象徴
図像は伝わらず、本サイトも主画像を掲げない。
三つの名がいずれもフリームニル(-hrímnir)で終わることに注意がいる。フリーム(hrím)は「霜」あるいは「煤」を意味する語である。アンド-(and-)は「〜にさらされた」、セー-(sæ-)は「海」あるいは「煤けた」、エルド-(eld-)は「火」。料理人と獣と鍋が、同じ語尾を共有する一組として名づけられている。
ヴァルハラの日常が、毎日繰り返される屠殺と再生として描かれる点も見逃せない。戦士たちが毎日戦って死に、夜には生き返るのと同じ構造が、その食事にも与えられている。永遠に繰り返される日課として、死後の世界が構想されている。
関わる神格・伝承
料理するのはセーフリームニル、用いる鍋はエルドフリームニル、蜜酒の材料はヘイズルーンの乳である。
エインヘリャル——戦死者のうちオーディンに選ばれてヴァルハラに迎えられた者たち——の食事を担う。ヴァルハラの記述において、料理人に名が与えられているという事実そのものが、この場所の日常が具体的に思い描かれていたことを示す。
文化的足跡
日本語圏では、ヴァルハラの猪セーフリームニルが毎日食べられては生き返るという話は比較的よく知られる。しかしそれを料理する者に名があることまで紹介されることは少ない。
神々の館に厨房があり、そこに専属の料理人がいる——北欧神話の描く死後の世界が、戦いだけでなく生活の細部まで含んでいたことがわかる。