アイフェ
オイフェ · アイフェ・アルドゲヴ · Aoife
アイルランド神話の女戦士。スカアハの姉妹にして宿敵であり、クー・フーリンに敗れて子コンラを産んだ。
解説
概要
アイフェ(Aífe)は、アルスター物語群に登場する女戦士である。『エウェルへの求婚』と『アイフェのひとり子の死』の二篇に現れる。レスラの王アード・グレヴネの娘で、武芸の師スカアハの姉妹にして宿敵にあたる。
クー・フーリンに敗れ、その子コンラを産んだ。この一事が、のちに父が我が子と知らず討つという物語群屈指の悲劇を用意する。
二篇のあいだで設定は食い違う。『エウェルへの求婚』では彼女はアルピ(スコットランド)の東に住む敵対者にすぎないが、『アイフェのひとり子の死』ではレサ——アルモリカ(現在のブルターニュ)——に住み、スカアハの姉妹とされる。写字生が別々の伝えを併存させたまま整えなかった跡である。
神話・物語
クー・フーリンがスカイ島でスカアハに武芸を学んでいたとき、アイフェとの戦が起こった。若者の身を案じたスカアハは、彼を戦場から遠ざけようと眠り薬を盛る。常人なら丸一日眠る量であったが、彼はわずか一時間で目覚めて戦列に加わった。
アイフェがスカアハに一騎討ちを申し入れ、クー・フーリンが代わって立つ。戦いの前、彼はスカアハに問うた——あの女が最も愛しているものは何か。戦車と馬だ、と答えが返る。
打ち合ううちに、アイフェは彼の剣を打ち砕いた。そのとき彼は叫ぶ——おまえの戦車と馬が崖から落ちた。彼女が振り向いた隙に組みつき、肩に担いで自陣へ運び、喉に剣を当てた。命乞いをする彼女に、彼は二つの条件を出す。スカアハとの争いをやめること、そして自分の子を産むこと。
アイルランドへ帰るとき、彼は身重の彼女に黄金の指輪を託した。子がこの指輪をはめられる年——七歳——になったらアイルランドへ寄越せ、ただし誰にも名を明かさぬよう命じよ、と。物語はこの指輪によって、悲劇の仕掛けを完成させる。七年後、コンラは指示どおりに名を伏せ、そのために父の手にかかった。すべてが終わってから、クー・フーリンは指輪に気づく。
図像と象徴
古代の図像はなく、当サイトも主画像を掲げない。ジョン・ダンカンが《アイフェ》と題した油彩を残しているが、アイルランド伝承にはこの名を持つ女性が複数おり——『スィールの子ら』で継子を白鳥に変えたアイフェが代表である——題名だけではどの人物を描いたものか定まらない。当サイトはこれを主画像に採らない。
物語が彼女に与える標識は、戦車と馬、そして黄金の指輪である。前者は彼女の弱点として使われ、後者は息子の身元を証すはずのものでありながら、間に合わなかった。両方とも、本人ではなく相手の手のうちで働く道具になっている。
系譜と関係
父はレスラのアード・グレヴネ、姉妹にして宿敵はスカアハ。子はコンラ。
スカアハとの関係が資料によって「宿敵」から「姉妹にして宿敵」へと変わる点は、この人物の位置をよく示している。師と敵、教える女と戦う女という対が、同じ家のうちに置き直されたのである。近代の再話ではしばしば冷酷な女戦士として描かれるが、原典の彼女に与えられた台詞は命乞いの一言だけであり、その後の消息は語られない。
なお名は、聖書のエバ(Eva)とは無関係である。音が似ることから英語ではしばしばエヴァと訳されてきたが、アイルランド語でエバはエーヴァ(Éabha)であり、別語にあたる。
文化的足跡
W・B・イェイツの戯曲『バーリャの浜辺で』(1904年)は、クー・フーリンが我が子を討つ物語を扱い、アイフェを舞台外の存在として——復讐のために息子を送り出した女として——造形した。原典の『アイフェのひとり子の死』にはそうした動機は書かれていない。指輪を託し、名を伏せよと命じたのは父のほうである。近代の再話がこの母に復讐者の役を与えたのは、悲劇に説明を求めた結果といえる。