イスバザデン
イスバザデン · イスバザデン・ベンカウル · Ysbaddaden
ウェールズの『キルフーフとオルウェン』の巨人。娘が結婚した日に死ぬという予言のため求婚者を殺してきた。瞼が重く従者が二股の棒で持ち上げる造形はアイルランドのバロールと共通する。約四十の難題を課したが果たされ、予言どおり死んだ。
解説
概要
イスバザデン・ベンカウル(「巨人の長イスバザデン」)は、ウェールズの物語『キルフーフとオルウェン』に登場する巨人で、娘オルウェンの父である。娘が結婚する日に自分は死ぬという予言を恐れ、求婚者をことごとく退けてきた。重く垂れた瞼を従者に二股の棒で持ち上げさせる姿で知られ、求婚に来たキルフーフに四十近い難題を課した。
なお本サイトの分類では、ケルト神話の体系に含めて扱う。
娘が嫁げば死ぬ
イスバザデンは、娘オルウェンが結婚する日に自分が死ぬと予言されていた。そのため、娘に求婚する者を次々と殺してきた。そこへ現れたのが、アーサー王の従兄弟の若者キルフーフである。キルフーフは継母の呪いによって、オルウェン以外の女性とは結婚できない身となっていた。
四十の難題
イスバザデンはキルフーフに、とうてい果たせないはずの難題を次々と課した。数は写本によって異なるが、四十近くにのぼる。なかでも名高いのが、巨猪トゥルフ・トゥルウィスの両耳のあいだから櫛と鋏を奪ってくることであった。キルフーフはアーサー王とその騎士たちの力を借りてこれらを成し遂げていく。課題と登場人物の名を延々と列挙していく語り口もこの物語の特徴で、11世紀頃に成立したとされるこの作品は、現存する最も古いアーサー王の物語でもある。
持ち上げられる瞼
イスバザデンの瞼は重く垂れ下がり、自分では開けることができない。従者たちが二股の棒で持ち上げて、ようやくものを見ることができる。アイルランドの魔眼の巨人バロールもまた、瞼を人に持ち上げさせる。見ることが破壊をもたらす巨人が、自分では目を開けられないという造形が、アイルランドとウェールズに共通している。
予言の成就
すべての課題が果たされると、イスバザデンは髭と皮膚と耳を剃り取られ、最後は首を刎ねられた。娘の結婚の日に死ぬという予言は、こうして成就する。予言を避けようとして重ねた行いが、結局は予言どおりの結末を招いたのである。
図像と象徴
本サイトが掲げるのは、『オルウェンの求婚』の挿絵である。
関わる伝承
オルウェンの父で、キルフーフに難題を課した。バロールと主題を共有する。
文化的足跡
『キルフーフとオルウェン』は『マビノギオン』に収められ、ウェールズ文学を代表する作品の一つとなっている。
なおケルトの伝承は今日も語り継がれており、本項の記述はその伝承に関する学術的な整理である。