ヴァイシュノー・デーヴィー
ヴァイシュノー・デーヴィー · ヴァイシュナヴィー · トリクータ
ジャンムーのトリクータ山の洞窟に祀られるヒンドゥーの女神。本尊は人の姿の像でなく、自然にできた三つの岩の隆起であり、力・富・知の三女神を表す。討たれた修行者バイローンの社に参らねば参拝が完結しないと定められている。
解説
概要
ヴァイシュノー・デーヴィーは、北インドのジャンムー・カシミール州のトリクータ山の洞窟に祀られる女神である。本尊は人の姿の像ではなく、洞窟の岩に自然にできた三つの隆起(ピンディー)で、それぞれ女神マハーカーリー、マハーラクシュミー、マハーサラスヴァティーを表すとされる。ヴィシュヌと結びつけられる処女の女神として祀られ、毎年数百万人が参拝する、インドで最も巡礼者の多い聖地の一つである。
なお本サイトの分類では、ヒンドゥーの体系に含めて扱う。
岩に宿る女神
ヴァイシュノー・デーヴィーの寺院の本尊は、洞窟の奥の岩に自然にできた三つの隆起である。人が造ったものではなく、女神が自ら姿を現したもの(スワヤンブー)とされる。三つの隆起は、それぞれ力(マハーカーリー)、富(マハーラクシュミー)、知(マハーサラスヴァティー)を表すという。像を刻むことなく、自然の岩そのものが祀られているのである。
バイローン・ナートの物語
伝承によれば、信者シュリーダルが催した祭に、少女の姿の女神が現れた。その美しさに惹かれた行者バイローン・ナートが、女神の後を追った。女神は洞窟に逃れ、そこで九か月を過ごした。この洞窟は「胎の洞窟」(ガルバ・ジューン)と呼ばれる。やがて女神は姿を現し、剣でバイローンの首を刎ねた。首は遠く離れた場所に落ちたという。死に際してバイローンは許しを乞い、女神はこれを受け入れて、「わたしへの参拝は、おまえの社に参らなければ完結しない」と定めた。今日も巡礼者は、女神の寺院に参ったのち、バイローンの社に参る。討たれた敵が、信仰の体系のなかに組み込まれたのである。
山を登る巡礼
巡礼者は、ジャンムー・カシミール州のカトラから、約13キロの山道を登って洞窟を目指す。巡礼者たちは「ジャイ・マーター・ディー(母なる女神に勝利を)」と声をかけ合う。
図像と象徴
固有の図像は伝わらず、本サイトも主画像を掲げない。三つのピンディーそのものが本尊であり、その撮影は許されていない。
関わる神格・伝承
マハーカーリー、マハーラクシュミー、マハーサラスヴァティーの三柱の女神として姿を現す。マハーデーヴィーの三つの姿とも対応する。
文化的足跡
ヴァイシュノー・デーヴィーへの巡礼は、20世紀後半以降に急速に規模を広げた。交通の発達と、映画やテレビを通じた知名度の高まりがその背景にある。
なおヒンドゥー教は今日も信仰されている生きた宗教であり、本項の記述はその神格の伝承と図像に関する学術的な整理である。