兎児神
兔兒神 · 兔児神 · 胡天保
男性同士の愛と性を司る中国の神。17世紀福建の民話で、地方官に恋して殺された兵士が兎の姿で夢に現れ廟を求めたことに由来する。2006年に台湾で廟が建てられた。
解説
概要
兎児神(とじしん、Tù'ér Shén)は、中国の民間信仰で、男性どうしの愛と結びつきを守るとされる神である。胡天保の名で呼ばれ、清代の福建で祀られていたと伝えられる。今日では台湾の廟で祀られている。
神話・物語
由来は、18世紀の文人袁枚の怪異譚集『子不語』に収められた話「兎児神」に見える。清の初め、福建に胡天保という若者がいた。新たに赴任してきた巡按御史(地方の監察官)の美しさに心を奪われ、役所に出向いては御史を見つめ、ついには厠をのぞき見るに至った。捕らえられて訳を問われた胡天保は、思いを抑えられなかったと打ち明けたが、御史は怒って彼を打ち殺させた。
ひと月ほどして、胡天保は村人の夢に現れた。自分は道ならぬ思いのために命を落としたが、冥界の役人たちは笑いこそすれ怒る者はなく、自分を兎児神に任じて、男どうしの縁を司らせることにした、ついては自分のために廟を建ててほしい、と告げたという。福建には男どうしが契りを結んで兄弟と呼び合う習わしがあり、夢の話を聞いた村人たちは金を出し合って廟を建てた。祈れば願いがかなうと評判になり、人々が密かに参ったと『子不語』は記す。
明代の沈徳符『万暦野獲編』も、福建の男たちのあいだで「契兄弟」と呼ばれる結びつきが広く行われていたことを記しており、兎児神の話はこうした地域の習俗を背景に生まれたものとみられる。
図像と象徴
古い時代の像や図は伝わらない。台湾の廟では、新たに作られた神像が祀られている。
「兎」「兎子」は、清代の俗語で男娼や男色を指す蔑称としても用いられた。蔑みの言葉が、守護神の名として逆に引き受けられている。
系譜と関係
福建の民間信仰に属する地方の神で、土地公や城隍のような公的な神格とは性格が異なる。非業の死を遂げた者が死後に霊験ある神として祀られるという形は、中国の民間信仰に広く見られる。
文化的足跡
2006年、台湾の道士盧威明が新北市に兎児神を主神とする廟を開いた。以後、恋愛や良縁を願う性的少数者の参拝を集め、清代の民話の神が現代の信仰として受け継がれた例として、国内外の報道にも取り上げられている。
なお道教と中国の民間信仰は今日も信仰されている生きた伝統であり、本項の記述はその神格の伝承と図像に関する学術的な整理である。