テーレパッサ
テレパッサ · テーレペー · アルギオペー
フェニキア王アゲーノールの妻でカドモスとエウローペーの母。名は「遠くまで輝く者」を意味し、もと月の添え名であった。娘を探す旅に同行してトラーキアで死んだ。
解説
概要
テーレパッサ(Τηλέφασσα、「遠くまで輝く者」)は、ギリシア神話の女性である。テーレパアッサ、テーレペーとも綴られる。
もとは月に関わる添え名であり、フェニキアのアゲーノール——名は「人を導く者」を意味する——の妻アルギオペーの代わりに用いられることがある。カドモスの母にあたる。
神話・物語
一つの伝えでは、テーレパッサはリビュエー自身の裔とされる。別の版では、テーレペーは他に知られないエピメドゥーサの娘とされる。
子は多い。エウローペー、キリクス、カドモス、タソス、ポイニクスである。タソスはキリクスの子、すなわち孫とされることもある。夫はアゲーノール、あるいはカドモスとエウローペーとその兄弟たちをポイニクスの子とする版ではポイニクスである。後者の版では、ペイロス、ポイニケー、アステュパレーがポイニクスの子として加えられる。
テーレパッサは娘エウローペーに、ヘーパイストスが作った黄金の籠を与えた。この贈り物はもともとポセイドーンがリビュエーに与えたもので、リビュエーが血縁によってテーレパッサに譲ったという。モスコスはこの籠を「黄金の、驚くべきもの、大いなる驚異にしてヘーパイストスの大いなる業」と記す。
エウローペーがゼウスにさらわれたのち、アゲーノールは息子たちに妹を探しに行かせ、見つけるまで帰るなと命じた。テーレパッサはカドモスに同行し、トラーキアで死んだ。カドモスは母を葬ったのち、デルポイの神託に従ってテーバイを建てる。
図像と象徴
固有の図像は伝わらず、本サイトも主画像を掲げない。
名が「遠くまで輝く者」を意味し、もと月の添え名であったことが、この人物の性格を示している。フェニキアの王家の母が月の名を負う——ギリシア人がフェニキアを語るとき、その王家に天体の名を配したことになる。
娘を探す旅に母が同行し、途中で死ぬという筋も見逃せない。カドモスの建国譚は、母の埋葬から始まる。
系譜と関係
夫はアゲーノール、子はエウローペー、カドモス、キリクス、ポイニクス。
アゲーノールの子らはそれぞれ土地の名祖になる。キリクスはキリキア、ポイニクスはフェニキア、カドモスはテーバイ。エウローペーはヨーロッパそのものの名祖である。一人の母から、地中海の東西に広がる地名が生まれている。
文化的足跡
日本語圏では、エウローペーの母、あるいはカドモスの母として名が挙げられる程度である。
しかし黄金の籠の来歴——ポセイドーンからリビュエーへ、リビュエーからテーレパッサへ、そしてエウローペーへ——は、女性のあいだで受け渡される財という主題を示している。籠を持ってさらわれる娘の図像は、この来歴を背負っている。