タルティウ
タルテ · タルティ · タイルティウ
アイルランドの平原を農地に拓くために働き、力尽きて死んだと伝えられる女神。養い子ルーが彼女を悼んで収穫祭と葬送競技オイナハ・タルテンを創始した。
解説
概要
タルティウ(古アイルランド語 Tailtiu、現代綴りタルテ Tailte)は、アイルランド神話の女神とされる存在である。ミース県のテルタウン——古アイルランド語のオイナハ・タルテン(タルティウの集会)に由来する地名——と結びつけられる。
アイルランドの平原を農地に拓くために働き、力尽きて死んだと伝えられる。養い子であるルーが、彼女を悼んで収穫祭と葬送競技を創始した。
神話・物語
『侵略の書』によれば、タルティウはアイルランド最後のフィル・ボルグ上王エオヒド・マク・エルクの妻であった。夫は自らの都に妻の名を与えている(ナヴァンとケルズのあいだにある、現在のテルタウン)。彼女はトゥアハ・デ・ダナーンの侵攻を生き延び、ルーの養母となった。
平原を拓く仕事に力尽きて死んだのち、ルーは彼女を記念して収穫祭と葬送競技オイナハ・タルテンを定めた。この祭は18世紀まで営まれ続けている。
ただし、この物語の由来には注意がいる。地名タルティウの言語学的な分析によれば、この語はブリソン系の借用語に遡り、ウェールズ語 telediw(よく整った、美しい)に対応する。つまり地名が先にあり、神話上の人物はその地名から名を得たと考えられる。
同様の構図は他にもある。カルムンで行われた同種のルグナサ祭も、地名譚がカルムンという神話上の人物にちなむと説明するが、こちらも人物のほうが地名に由来する可能性が高い。土地の名を説明するために人物が作られ、その人物の死を悼んで祭が始まったと語られる——アイルランドの地名譚に繰り返し現れる型である。
図像と象徴
図像は伝わらず、本サイトも主画像を掲げない。
この女神の属性は行為に尽きる。森を伐り、平原を拓き、力尽きて死ぬ。土地を農地に変えることが命がけの労働であったという事実が、そのまま神格の物語になっている。豊穣の女神が実りを与えるのに対し、この女神が与えるのは耕せる地面そのものである。
葬送競技という形も見逃せない。誰かの死を悼んで競技を行うという発想は、ギリシアの葬送競技をはじめ各地に見られる。オイナハ・タルテンでは力比べと技比べが催され、婚姻の契約と冬営の取り決めが結ばれ、祭のあいだは平和が宣言された。宗教的な祝いも行われている。
関わる神格・伝承
夫はエオヒド・マク・エルク、養い子はルー。ルグナサ(8月1日の収穫祭)の祝いには、この祭の要素が受け継がれている。
歴史上、テルタウンの町は初期ウイ・ニール王朝の主要な集会の地であった。神話上の祭が実在の政治的集会の場と重なっていることになる。
文化的足跡
オイナハ・タルテンは、20世紀に「タルティアン・ゲームズ」として一時期復興された。アイルランド自由国が国民的な競技祭として組織したもので、1924年、1928年、1932年に開催されている。
神話上の女神を記念する古代の競技祭という物語が、独立して間もない国家の自己表象に用いられた。地名から生まれた人物が、千年以上を経て国民競技の由来として持ち出される——伝承がどう再利用されるかを示す、分かりやすい例である。