愛染明王
愛染王 · 吒枳王 · ラーガラージャ
真紅の身色で獅子冠を戴き、六臂に弓矢を持って蓮上に坐す明王。密号「離愛金剛」は愛欲を離れるのではなく大欲に転じる意。金剛薩埵の化身で、縁結びと染物の守護神として民間に信仰される。
解説
概要
愛染明王(あいぜんみょうおう、梵 Rāgarāja「愛欲の王」)は、密教の仏教で信仰される明王の一尊である。愛欲という煩悩をそのまま悟りを求める力に転じさせる仏とされ、真紅の身体に獅子の冠を戴き、弓矢を手にする姿で表される。金剛薩埵の現れとみなされる。
信仰
愛染明王の根本経典は、唐の金剛智訳と伝えられる『金剛峯楼閣一切瑜伽瑜祇経』(略して『瑜祇経』)で、その「愛染王品」に姿と真言が説かれる。インドの原典は確認されておらず、この経典を通じて中国から日本に伝わった尊格である。密号(密教での呼び名)は「離愛金剛」で、愛欲を捨て去るのではなく、迷いの愛を離れて悟りを愛する大きな欲へと転じることを表すと解される。
日本では平安時代から、敬愛(人々の和合)や息災、さらに国家の大事に際しての調伏を祈る修法の本尊として重んじられた。鎌倉時代には、西大寺の叡尊が愛染明王を深く信仰し、その教団の広がりとともに信仰が広まった。のちには縁結びや恋愛成就の仏として庶民にも親しまれ、「愛染」を「藍染」に通わせて、染物職人の守り本尊ともされた。
図像と象徴
一面三目六臂の忿怒相で、獅子の頭をかたどった冠を戴き、宝瓶の上に開いた蓮華に結跏趺坐する。身色は日輪のような真紅で、背後に赤い円光を負う。六本の腕には五鈷杵と五鈷鈴、弓と矢、蓮華などを執り、残る一手は拳を握る。弓矢は、愛欲の矢で人々の心を射て悟りへ向かわせることを表すとされる。弓を天に向けて引く「天弓愛染」や、二つの顔をもつ「両頭愛染」といった変わった姿もある。
代表的な作例に、西大寺の愛染明王坐像(1247年、仏師善円作、重要文化財)がある。叡尊の発願による小像で、鮮やかな彩色と精緻な装身具をよく残している。本サイトの主画像は、平安時代の画僧永厳が描いた愛染明王図(1139年、龍谷大学図書館蔵)である。
系譜と関係
金剛薩埵の現れとされる。五大明王には含まれず、単独で祀られることが多い。
文化的足跡
大阪・天王寺の愛染堂勝鬘院の「愛染まつり」(6月30日〜7月2日)は、大阪の夏祭りの始まりを告げる行事として知られる。各地の愛染堂は、今日も縁結びの仏として参拝を集めている。
なお仏教は今日も信仰されている生きた宗教であり、本項の記述はその尊格の伝承と図像に関する学術的な整理である。