ニャイ・ロロ・キドゥル
ニャイ・ロロ・キドゥル · カンジェン・ラトゥ・キドゥル · Nyai Roro Kidul
ジャワ南岸のインド洋を治める南の海の女王。継母の呪いで病に冒され追放されたスンダの王女が海に身を投げ、海の霊に受け入れられて女王となった。16世紀以来マタラム王家の歴代の王の霊的な妃とされ、今日も王宮の儀礼で維持されている。南岸で緑の服を着ると連れ去られるという。
解説
概要
ニャイ・ロロ・キドゥルは、インドネシアのジャワ島の南に広がるインド洋を治める、南の海の女王である。スンダとジャワの神話に語られ、継母の呪いで病に冒され追放された王女が海に身を投げ、海の霊に迎えられて女王となったと伝えられる。16世紀以来、ジャワのマタラム王家の歴代の王と霊的な婚姻で結ばれているとされ、その結びつきは今日も王宮の儀礼のなかで保たれている。
なお本サイトの分類では、東南アジアの神話の体系に含めて扱う。
南の海
ジャワ島の南岸は、荒波の打ち寄せるインド洋に面している。南の海は、ニャイ・ロロ・キドゥルの王国とされた。南の海岸で緑色の服を着ると、女王に連れ去られると言われる。緑は女王の色なのである。ジャワ南岸の波と潮の流れは実際にきわめて危険であり、この言い伝えには、その海の恐ろしさが映し出されている。
追放された王女
伝承によれば、女王はもとスンダの王の一人娘であった。継母の呪いによって病に冒され、父王に追放された王女は、南の海に身を投げた。海の霊たちは彼女を迎え入れて病を癒し、南の海の女王とした。不遇のうちに命を絶った女性が強大な霊となるという点で、ブラジルのイアラやケーララのカッリヤンカットゥ・ニーリとも通じるものがある。
王家の霊的な妃
16世紀、マタラム王国を開いたセノパティは、南の海岸で瞑想していたとき女王と出会い、霊的な婚姻を結んだとされる。以後、女王はマタラムの歴代の王の霊的な妃として、王家を守る存在となった。今日のジョグジャカルタとスラカルタの王宮でも、この結びつきは儀礼として保たれている。スラカルタの王宮では、王の即位記念日に、女王に捧げる聖なる舞ブドヨ・クタワンが舞われ、女王自身もその舞に加わるとされる。イスラームの王家が、土地の海の女神との婚姻によって、その正統性を支えているのである。
女王の部屋
1966年にジャワ南岸に建てられた国営のホテルには、女王のための部屋が用意され、常に空けられている。部屋は緑で飾られ、供物が置かれている。近代の建物のなかにも、女王への信仰が息づいている。
図像と象徴
本サイトが掲げるのは、カンジェン・ラトゥ・キドゥルを描いた図である。
関わる伝承
マタラム王家の霊的な妃とされる。
文化的足跡
ニャイ・ロロ・キドゥルは、インドネシアの映画やテレビに最も頻繁に登場する神話上の人物の一人である。
なお東南アジアの伝統は今日も継承されている生きた文化であり、本項の記述はその伝承に関する学術的な整理である。