ミクトランテクートリ
ミクトランテクトリ · ツォンテモック · 死者の主
アステカ神話の死の主。九層の冥界ミクトランを統べ、髑髏の姿で描かれる。すべての死者が最後に赴く、冷たく暗い最下層の王である。
解説
概要
ミクトランテクートリ(Mictlāntēcutli、「ミクトランの主」の意)は、アステカ神話における死の神であり、最下層の冥界ミクトランを統べる王である。数多いアステカの死の神格のうち最も重きをなす一柱で、髑髏をかたどった姿で表される。妻は「死者の淑女」ミクテカシワトルで、二柱は冥界を共に治める。別名にツォンテモック(「頭から落ちる者」)、イシュプステック(「割れた顔」)、ネシュテペワ(「灰を撒く者」)がある。
神話・物語
アステカの死生観では、死者は死のありようによって行き先を異にした。戦場に斃れた者や捕虜として供された者は太陽に従い、水に関わって死んだ者は雨神トラロックの楽園トラロカンへ向かう。それ以外の大多数は、四年をかけてミクトランの九つの層をくだり、ミクトランテクートリのもとに至るとされた。
この神がとりわけ際立つのは、いまの人類の創造をめぐる物語である。第五の太陽の世を興すため、羽毛の蛇ケツァルコアトルは前代の人骨を求めてミクトランへ降った。ミクトランテクートリは骨を渡すまいと難題を課すが、ケツァルコアトルは策をもってこれを持ち去る。逃げる途上で骨は砕けたと伝えられ、それを挽いて神の血と混ぜたところから、いまの人間が生まれた——サアグンフィレンツェ写本ほかの伝える創造譚である。死の主は、生の源をも握る存在として描かれている。
図像と象徴
ミクトランテクートリは、血にまみれた骸骨、あるいは髑髏の面をつけた姿で描かれる。頭部は髑髏だが眼窩には目玉がはめ込まれ、髪はちぢれ、フクロウの羽と紙の幟で飾られた冠をいただく。首飾りは人間の眼球を連ねたもの、耳飾りは人骨を刻んだものとされる。露わになった肝臓は、この臓器を冥界と結びつけるアステカの観念を映す。テノチティトランの大神殿(テンプロ・マヨール)に隣り合う「鷲の家」からは、この神をかたどった等身大の土偶が入口を守るように出土しており、伝承と実際の祭祀を結ぶ手がかりとなっている。
系譜と関係
配偶神はミクテカシワトルで、両者は冥界の対の主をなす。冥界を旅する死者を導く犬ショロイツクィントリは、犬の姿をもつ神ショロトルと重なり、死の道行きの水先案内という点で両者は近しい。フクロウやクモ、コウモリといった夜と地下の生き物が、この神の眷属とされた。
文化的足跡
ミクトランテクートリは、征服後の絵文書や植民地期の記録を通じて知られ、今日のメキシコの死生観——とりわけ「死者の日」の文化——の遠い背景として言及されることがある。骸骨のイメージは現代の美術や創作にも受け継がれ、ゲームや映像作品にも死の神として登場する。
領分・別名
親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承/点線=異伝・別系統。