メタトロン
メタトロン · マタトロン · 小ヤハウェ
ユダヤ教の天使で、エノクが天に上げられて変じた姿とされる。「小さきヤハウェ」と呼ばれ天の書記を務める。天で坐している姿を見たラビが「二つの権能があるのか」と考えて異端に陥り、メタトロンも罰されたという逸話が伝わる。
解説
概要
メタトロン(マタトロンとも)は、ユダヤ教における天使である。
タルムードに三度、アガダー、タルグム、そしてラビ文学のなかの神秘主義的なカバラー文書のいくつかの短い箇所に言及される。
ラビ文学において、しばしば天の書記として仕える者として描かれる。メタトロンの名は、トーラーにも聖書にも言及されない。
なお本サイトの分類では、アブラハムの体系に含めて扱う。
人が天使になる
『第三エノク書』(ヘブライ語エノク書)において、メタトロンはエノクが変じた姿である。
エノク。 『創世記』5章24節「エノクは神とともに歩み、神が彼を取られたので、いなくなった」
死んだと書かれない稀な人物である。
変身。 エノクは天に上げられ、その身体が火に変えられ、天使となった。
「小さきヤハウェ」。 メタトロンは「小ヤハウェ」(ヤホエール・カタン)と呼ばれる。
神の名を負う。 神の名を帯びる天使という位置は、ユダヤ教において危険な観念である。
エリシャ・ベン・アブヤの逸話
タルムード(『ハギガー』15a)に、有名な逸話がある。
二つの権能。 ラビのエリシャ・ベン・アブヤが天に昇ったとき、坐しているメタトロンを見た。
坐る天使。 天では神のみが坐り、天使は立つ。坐しているメタトロンを見て、エリシャは「天に二つの権能があるのか」と考えた。
異端に陥る。 この考えのために、エリシャは異端者となった。「アヘル」(他者)と呼ばれるようになる。
メタトロンも罰される。 メタトロンは火の鞭で六十打たれ、以後立つことを命じられた。
一神教の緊張。 神に近すぎる天使が、一神教にとって危険であることを、この物語は示す。
同じ緊張は、キリスト教の三位一体論、イスラームのシルク(多神の罪)の観念にも現れる。
名の由来
「メタトロン」の語源は不明である。
ギリシア語説。 「メタ・スロノン」(玉座の傍らに)、「メタ・トゥラノス」(共に支配する者)に由来するとする説がある。
ラテン語説。 「メタトル」(先導者、測量者)に由来するとする説がある。
確定していない。 いずれも決定的ではない。
図像と象徴
本サイトが掲げるのは、イスラーム美術に描かれたメタトロンである。
イスラームにおいて。 ミータトルーンの名で、一部の文献に現れる。
関わる神格・伝承
エノクの変じた姿。サンダルフォンと兄弟とされる。
文化的足跡
メタトロンは、現代のポピュラー文化において最も頻繁に取り上げられる天使の一柱である。
なおユダヤ教・キリスト教・イスラームは今日も信仰されている生きた宗教であり、本項の記述はその伝承と観念の歴史に関する学術的な整理である。