マニメーカラー
マニメーカラー · メッカラー · モニ・メカラー
東南アジア仏教の海の守護女神。マハージャナカ本生で難破した王子の精進を認めて救った。名は「宝石の帯」。タイとカンボジアでは巨人ラーマスーンと宝石を争う物語が雷と稲妻の起源譚となる。
解説
概要
マニメーカラー(パーリ語 Maṇimekhalā、「宝石の帯」)は、仏教の本生譚に登場する海の女神で、東南アジアではインド洋と南シナ海の守り手として親しまれてきた。難破した船の乗り手のうち、徳のある者を救うのがその務めである。タイとカンボジアでは稲妻の女神としても語られ、巨人ラーマスーンとの追いかけ合いが雷と稲妻の起源とされる。
各地での呼び名は、ビルマ語マニ・メーカラー、クメール語モニ・メカラーあるいはネアン・メカラー、タイ語マニ・メッカラー(略してメッカラー)などである。
なお本サイトの分類では、東南アジアの神話を主たる体系とし、仏教を併記する。
難破した王子
女神は四天王から海の見張りを任されているとされる。本生譚の最後の十話(大十本生)の一つ『マハージャナカ本生』では、釈迦の前世である王子マハージャナカが、商いの船に乗って海に出て難破する。ほかの乗り手が神々に祈りながら沈んでいくなか、王子だけは体に油を塗り、七日のあいだ泳ぎ続けた。女神が現れて、岸も見えない海でなぜ努力を続けるのかと問うと、王子は、努め続けて死ぬのなら誰にも責められることはない、と答えた。女神はその心に打たれ、王子を抱えて陸へ運んだ。
この話は、あきらめずに努め続ける精進の徳を示すものとして、東南アジアの寺院の壁画に繰り返し描かれてきた。
雷と稲妻
タイとカンボジアでは、女神は光を放つ水晶の玉を手に空を舞う。この玉を奪おうと、斧を持った巨人ラーマスーン(クメール語ではリアム・エイソー)が追いかけ、女神が玉をかざして目をくらませるたびに斧を投げつける。玉の閃きが稲妻、斧の響きが雷であるという。ラーマスーンは、斧を武器とするインドのパラシュラーマに由来するとされる。
図像と象徴
本サイトが掲げるのは、1850年頃のタイの絵画に描かれたメッカラーとラーマスーンである。
ミャンマー南部ビリン近くのゾートケでは、紀元1千年紀にさかのぼる女神の浮彫が見つかっている。
関わる神格・伝承
四天王の配下とされる。南インドとスリランカでも海の女神として知られ、タミルの仏教叙事詩『マニメーカライ』では、同じ名の主人公を眠らせて島へ運び、のちに尼となる道を開く。海を守る女神として、中国の媽祖やジャワのニャイ・ロロ・キドゥルと比べられる。
文化的足跡
カンボジアの宮廷舞踊「ロバム・モニ・メカラー」は、女神と巨人の追いかけ合いを演じる舞で、雨を呼ぶ儀礼の舞として古典舞踊のなかでも特に神聖なものとされる。タイでも、宮廷の舞踊劇の幕開けの舞として同じ物語が演じられてきた。タイが台風の名として提出した「メーカラー」も、この女神の名である。
なお仏教は今日も信仰されている生きた宗教であり、本項の記述はその尊格の伝承と図像に関する学術的な整理である。