レレクス
レレックス · レレゲス人の祖 · Lelex
ラコニアの最初の王とされる土着の英雄。その名から地方はレレギアと呼ばれ、レレゲス人の祖と考えられた。
解説
概要
レレクス(Λέλεξ / Lelex)は、ラコニア(ラケダイモーン)の最初の住人にして最初の王とされる人物である。その名にちなんで、この地方はかつてレレギアと呼ばれたという。エーゲ海の両岸に住んだとされる半ば伝説的な民族レレゲス人の、名祖として構想された存在である。
物語を持たない。この人物について語りうるのは、系譜と地名だけである。だが、そのこと自体がこの種の英雄の性格をよく示している。
神話・物語
出自からして定まらない。土着(アウトクトーン)の者、すなわち大地から直接生まれた者とする伝えがあり、父を太陽神ヘーリオスとする説、ポセイドーンとする説もある。土着とされることは重要で、外から来たのではなくもとからそこにいたという主張が、この人物の存在理由そのものだからである。
子孫の系譜も一様でない。ニュンペーのクレオカリアと結ばれてエウロータースの父となったとするもの、ポリュカーオーンとミュレースの父であり、ミュレースの子がエウロータースだとするものがある。妻をペリーディアとし、ミュレース、ポリュクローン、ボーモロコス、テラプネーを子とする伝えもある。別の伝承ではスパルトスの子とされ、アミュクラースの父とされる。ラコニアの名祖である女性ラーコーニアも、この人物の娘とされた。
同じ位置に複数の名が入れ替わるのは、名祖として構想された人物に共通する現象である。各地の家系が自らを土地の始祖に結びつけようとした結果、系譜が枝分かれしたと考えられる。
系譜の先には、ギリシア神話の中心的な血筋が続く。ミュレースを介した孫がエウロータース、その娘がスパルタで、彼女はラケダイモーンと結婚した。夫は妻の名をとって都市をスパルタと名づけたが、市は彼自身の名でラケダイモーンとも呼ばれた。スパルタの娘エウリュディケーはアルゴス王アクリシオスに嫁ぎ、ダナエーを生む。すなわちペルセウスは、この土着の王の子孫にあたることになる。ラコニアの土から出た始祖が、アルゴスの英雄譚につながっている。
なお、メガラの王レレクスやレウカスの王レレクスにも同名の人物がおり、いずれも別の存在である。名祖としてのレレクスが複数の土地で立てられた結果とみられる。
図像と象徴
レレクスを表した古代の作例は知られていない。名祖として構想された人物が図像を持たないのは通例であり、この王も例外ではない。本項では主画像を置いていない。
ただし祭祀の跡はある。パウサニアースによれば、スパルタにはレレクスの英雄祠(ヘーローオン)があった。都市が自らの起源をこの人物に求め、実際に祀っていたことになる。物語も像も持たない存在が、祭壇だけは持っていたわけである。
系譜と関係
土着とされ、あるいはヘーリオスやポセイドーンの子とされる。妻はクレオカリアまたはペリーディア。子にエウロータース、ポリュカーオーン、ミュレース、テラプネーらの名が挙がる。子孫のラケダイモーンがスパルタの都市名の由来となり、その血筋はアクリシオスを経てペルセウスへつながる。
文化的足跡
レレゲス人は、ヘロドトスやストラボーンがギリシア人以前の先住民として言及する集団である。実在の民族を指すのか、後代のギリシア人が「自分たちより前にいた者たち」を漠然と呼んだ名なのかは、今日も議論が続いている。近代の考古学と言語学は、この名に対応する確実な物質文化を特定できていない。レレクスという人物は、その不確かな集団に一人の始祖を与えるために構想された名であり、名祖という装置がどう働くかを示す標本のような存在といえる。
領分・別名
親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承/点線=異伝・別系統。