イオレー
イオレ · イオレイア · Iole
オイカリア王エウリュトスの娘。ヘーラクレースが弓競技で勝ちながら拒まれ、のちに奪って連れ帰ったことが、デーイアネイラの嫉妬と英雄の死を招いた。ヒュロスの妻となる。
解説
概要
イオレー(Ἰόλη)は、ギリシア神話の女性である。オイカリアの王エウリュトスの娘で、イーピトス、クリュティオス、トクセウス、モリオーンと兄弟姉妹にあたる。
ヘーラクレースとデーイアネイラの子ヒュロスの妻となり、クレオダイオス、アリスタイクメー、エウアイクメーを産んだ。
神話・物語
イオレーは美しく、父エウリュトスは結婚させたがらなかった。そこで自分と息子たちに弓競技で勝った者に娘を与えるとした。ヘーラクレースが来て勝つと、エウリュトスと息子たちは、狂気に陥ったヘーラクレースがメガラーとの子を殺したように、イオレーとの子も殺すのではないかと恐れて結婚に反対した。そればかりか、酒で酔わせて追い出した。
怒ったヘーラクレースは、のちにオイカリアを攻めてエウリュトスと息子たちを殺し、イオレーを捕虜として連れ帰った。
これがヘーラクレースの死を招く。妻デーイアネイラは、夫が若い捕虜を愛していると聞き、かつてネッソスから与えられた「愛を取り戻す薬」を衣に塗って送った。それは実は毒であり、ヘーラクレースは苦しみのあまりオイテー山で自らを焼いた。
死に際してヘーラクレースは、子ヒュロスにイオレーを娶るよう命じた。
図像と象徴
固有の図像は伝わらず、本サイトも主画像を掲げない。
この女性が担うのは、英雄の死の遠因という位置である。彼女自身は何も行わない。求められ、拒まれ、奪われ、そして嫉妬の対象になる。ソポクレース『トラーキースの女たち』において、イオレーは舞台に登場するが一言も発しない。沈黙のまま、物語を動かしている。
関わる神格・伝承
父はエウリュトス、夫はヒュロス、子はクレオダイオス。
クレオダイオスの子がアリストマコスであり、その子らがペロポネーソスへ帰還してこれを三分した。つまりヘーラクレイダイ——ドーリス人の王家——の血統は、この女性を経由している。
文化的足跡
日本語圏では、ヘーラクレースの死の原因となった女性として言及される。しかしその沈黙の位置——一言も語らずに物語を動かす——は、ソポクレースの劇作技法として論じられてきた。