ヒュメナイオス
ヒュメナイオス · ヒュメーン · Hymen
ギリシアの婚礼の神で、花嫁の行列で歌われる歌にその名が呼ばれる。呼び声「ヒュメーン・オー・ヒュメナイエ」が神格化されたとみられる。アポローンとムーサの子などとされ、松明と花冠を持つ有翼の若者として表される。
解説
概要
ヒュメナイオス(Ὑμέναιος / Hymenaios)、短くヒュメーン(Ὑμήν)は、婚礼の歌と行列に呼びかけられる婚姻の神である。もとは婚礼の場で繰り返される呼び声「ヒュメーン、オー、ヒュメナイエ」があり、その名が擬人化されて神とも人ともつかない若者の姿を得たとみられる。
神話・物語
系譜は定まらない。アポローンとムーサの一柱——カリオペー、ウーラニアー、あるいはクレイオー——の子とする伝えがあり、ほかにディオニューソスとアプロディーテーの子とする伝えもある。
その由来を説明する物語も複数ある。
一つは、アテーナイの貧しい若者の話である。身分違いの娘に恋した若者は、女装して娘たちの行列に紛れ込み、エレウシースへ向かう途中で海賊に襲われた一行とともにさらわれた。海賊が眠ったすきに皆殺しにして娘たちを連れ帰り、褒美として恋した娘を妻に得た。その結婚が幸福であったため、以後の婚礼で彼の名が呼ばれるようになったという。
もう一つは、婚礼の日に死んだ若者の話である。祝いの場で命を落とした彼を悼み、以後の婚礼でその名を呼んで慰めるのだと説明される。
いずれも、呼び声が先にあり、それに合う人物が後から用意されたことをうかがわせる。同じ型の説明は、哀歌の呼び声から生まれた詩人リノスにも見られる。
図像と象徴
本サイトの主画像は、ローマの外港オスティア・アンティカのネプチューン浴場(第3室)に残るヒュメナイオスの像である。
図像では、婚礼の松明と花冠を持つ有翼の若者として表される。エロースと似るが、より年長の姿で描かれることが多い。ローマの石棺浮彫では、婚礼の場面で新郎新婦の傍らに立つ。
系譜と関係
父はアポローン、あるいはディオニューソス。母はムーサの一柱、あるいはアプロディーテー。婚姻の領域をアプロディーテー、エロース、ヘーラーと分け合う。
文化的足跡
サッポーの婚礼歌やカトゥッルスの祝婚歌(第61歌・第62歌)に、この名を呼ぶ句が現れる。近代語では、処女膜を指す解剖学の用語(英 hymen)が同じ語形をもつが、両者の語源的な結びつきについては諸説ある。
領分・別名
親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承/点線=異伝・別系統。