ヒュラース
ヒュラス · Hylas
ヘーラクレースに愛された美しい従者。アルゴナウタイの途上、泉に水を汲みに行って美しさに魅了されたニュンペーたちに水中へ引き込まれた。ヘーラクレースは彼を探して一行を離れた。
解説
概要
ヒュラース(Ὕλας)は、ギリシア神話の人物である。ドリュオプス人の王テイオダマースと、オーリーオーンの娘でニュンペーのメノディケーの子。あるいはケーユクスの子ともいう。
ヘーラクレースに仕える美しい少年で、ヘーラクレースに愛された。アルゴナウタイに参加したが、美しさゆえに泉のニュンペーにさらわれた。
神話・物語
ヘーラクレースは、ドリュオプス人が非道であったためテイオダマースを殺し、館から幼いヒュラースを奪って従者として育てた。ヒュラースは優れた従者に成長し、ヘーラクレースの弓矢持ちを務めた。
アルゴナウタイがキオス河の河口近くのキアノスに上陸したとき、ヘーラクレースは森に木を伐りに行き、ヒュラースは近くの泉に水を汲みに行った。それは土地のニュンペーたちが歌舞団を作ってアルテミスを祭るときであり、泉のニュンペーたちも水底から水面へ上がってくるところであった。ヒュラースを見つけた彼女たちは、その美しさに魅了され、水中へ引き込んだ。
ヘーラクレースは狂ったように少年を探し回り、アルゴー船は彼を置いて出航した。テオクリトス『牧歌』第13歌が、この場面を詳しく描く。
以後、キオスの人々は毎年ヒュラースの名を呼びながら森を探し回る儀礼を行ったという。ヘーラクレースが土地の人々にそれを命じたとされる。
図像と象徴
固有の図像は伝わらず、本サイトも主画像を掲げない。ただしウォーターハウス《ヒュラスとニンフたち》(1896年)は、この主題の近代における最も名高い作例である。
美しさゆえにさらわれるという構図が、この人物を規定する。ガニュメーデースと同じく、美貌が神々や精霊の側に奪われる理由になっている。ただしガニュメーデースが天へ上げられるのに対し、ヒュラースは水底へ引き込まれる。
毎年名を呼んで探す儀礼という結末も見逃せない。失われた少年を呼ぶ声が、土地の祭祀として制度化されている。
関わる神格・伝承
父はテイオダマース、母はメノディケー。ヘーラクレースに愛された。
ヘーラクレースがアルゴナウタイの途中で一行を離れる理由として、この挿話は機能している。最強の英雄が、金羊毛の遠征の本筋から外れる。
文化的足跡
「ヒュラースの名を呼ぶ」という表現は、ウェルギリウス『牧歌』第6歌にも見え、失われたものを求め続ける行為の比喩として用いられた。
日本語圏では、ウォーターハウスの絵画を通じてこの名を知る人が多い。