エーコー
エコー · エコ · Echo
木霊を人格化した山のニュンペー。パーンに拒絶して八つ裂きにされたという版と、ナルキッソスに恋して身体が消え声だけ残ったという版がある。いずれも後世の物語。
解説
概要
エーコー(Ἠχώ、ラテン語 Echo)は、ギリシア神話に登場する山のニュンペーである。古代ギリシア語で本来「木霊」を意味し、その擬人化にあたる。
パーンや美青年ナルキッソスとの恋の物語で知られるが、いずれも古典期の資料には見えず、ヘレニズム期以降に形づくられた話である。
神話・物語
アルカディアの神パーンが恋をした多くのニュンペーの一人に、エーコーがいた。エーコーは歌も踊りも上手であったが、男性との恋を好まず、パーンの求愛を断った。ふられた腹いせに、そしてかねてからエーコーの歌に妬みを抱いていたこともあって、パーンは配下の羊飼いたちを狂わせた。羊飼いたちはエーコーに襲いかかり、その体を引き裂いた。それは、彼女の歌う節(メレー)をばらばらにすることでもあった。ギリシア語の「メレー」は、歌の節と、体の節々の両方を意味するのである。ガイアはエーコーの体を隠したが、ばらばらになった歌の節は残った。パーンが笛を吹くと、どこからともなくその節がこだまとなって聞こえ、たびたびパーンを怯えさせたという。
オウィディウスの『変身物語』第3巻は、別の話を伝えている。エーコーは、ゼウスの浮気を隠すために長話をしてユーノー(ヘーラー)を引き留めたため、怒った女神によって、他人の言葉の終わりの部分しか繰り返せないようにされた。その後エーコーは美しい若者ナルキッソスに恋をしたが、自分から話しかけることができない。ナルキッソスが「誰かいるか」と呼べば「いるか」と返し、「来い」と言えば「来い」と返すだけであった。ついに姿を現して抱きついたが、拒まれてしまった。エーコーは恥じて洞窟に身を隠し、体は痩せ衰えて、声だけが残ったという。
図像と象徴
本サイトが掲げるのは、アレクサンドル・カバネルが1874年に描いた《エーコー》である。
ただしナルキッソスとエーコーを描いたポンペイの壁画、およびウォーターハウス《エコーとナルキッソス》(1903年)がよく知られる。

木霊という自然現象の説明として、二つの物語が用意されている。パーンの版では、殺された女の歌の断片が響く。オウィディウスの版では、拒まれた女の身体が消えて声だけが残る。いずれも、失われた者の残響として木霊を説明する。
関わる神格・伝承
パーンとナルキッソスに関わる。ユーノーの呪いを受けた。
パーンとのあいだに娘イアンベーをもうけたとする伝えもある。イアンベーは、娘を失ったデーメーテールを卑猥な冗談で笑わせた女であり、イアンボス詩の名祖とされる。
文化的足跡
英語の echo をはじめ、各国語で木霊を意味する語がこの名に由来する。神話上の人物の名が、そのまま音響現象の名になった。
日本語圏でも「エコー」は日常語として定着している。その語源がギリシアのニュンペーであることは、比較的よく知られている。