デウィ・ラティ
デウィ・ラティ · サン・ヒャン・ラティ · Dewi Ratih
ジャワとバリの月の女神で美の女神。求婚を拒まれた巨人カラ・ラウが不死の霊薬を盗み飲もうとしたのを見抜いて告げ、ヴィシュヌに首を刎ねられた巨人の首だけが不死となった。以後その首が月を追って呑み込むが胴がないためすぐ出てくる——これが月蝕である。インドのラーフの物語のジャワ・バリ版。
解説
概要
デウィ・ラティは、インドネシアのジャワとバリで信仰される月の女神で、その美しさから美の女神ともされる。求婚を拒んだ巨人カラ・ラウに恨まれ、首だけになって不死となった巨人が、月を追って呑み込もうとする——これが月食であると語られる。インドのラーフの物語が、ジャワとバリで恋と拒絶の筋を加えて語り直されたものである。
なお本サイトの分類では、東南アジアの神話を主たる体系とし、ヒンドゥーを併記する。
首だけの巨人
巨人カラ・ラウはデウィ・ラティに恋をしたが、女神は醜い巨人の求婚を拒んだ。怒ったカラ・ラウは神々に化け、不死の霊薬アムリタを盗み飲もうとした。これを見抜いたデウィ・ラティがヴィシュヌに告げ、ヴィシュヌは円盤で巨人の首を刎ねた。しかし霊薬はすでに喉を通っており、首だけが不死となった。以来、首だけの巨人は恨みを抱いて月を追い、呑み込もうとする。けれども胴体がないため、呑み込んだ月はすぐに喉から出てきてしまう。月が欠けてはまた現れる月食は、この追跡なのである。
ラーフの物語のジャワ版
インドの乳海攪拌の物語では、不死の霊薬を盗み飲んだ阿修羅ラーフの首が不死となり、太陽と月を呑む。カラ・ラウの物語は、このラーフの物語のジャワ・バリ版である。インドでは盗み飲みを告げたのは太陽と月の神であったが、ジャワとバリでは、月の女神が求婚を拒んだことが発端となっている。天体の神話に、恋と拒絶の物語が加えられたのである。フィリピンの月を呑む竜バクナワも、同じ系統に属するとする説がある。
月食の夜
月食のとき、人々は臼を叩き、銅鑼を鳴らして巨人を追い払った。バリでは、木製の割れ目太鼓クルクルを打ち鳴らす。蝕のときに音を立てて天体を守る習わしは、東南アジア全域に見られる。
図像と象徴
本サイトが掲げるのは、デウィ・ラティとカラ・ラウを描いたバリの絵画である。
関わる神格・伝承
ラーフのジャワ・バリ版であるカラ・ラウに追われる。
文化的足跡
デウィ・ラティとカラ・ラウの物語は、バリの伝統絵画(カマサン様式)や影絵芝居の題材となっている。
なお東南アジアの伝統は今日も継承されている生きた文化であり、本項の記述はその伝承に関する学術的な整理である。