バクナワ
バクナワ · 月を食う竜 · Bakunawa
フィリピン神話の月を食う竜で、蝕を引き起こす。かつて天に七つあった月を海から躍り上がって一つずつ呑み、人々が鍋や銅鑼を叩いて最後の一つを守ったとされる。インドのラーフの観念が伝わったとする説がある。その動きは建築の吉凶を定める暦としても機能した。
解説
概要
バクナワは、フィリピンの神話に登場する、月を呑む大蛇、あるいは竜である。かつて天に七つあった月を海から躍り上がって次々に呑み込み、人々が鍋や銅鑼を打ち鳴らして最後の一つを守ったと語られる。月食や日食をもたらす存在とされ、その動きは、家の建築の吉凶を定める暦としても用いられた。
なお本サイトの分類では、東南アジアの神話の体系に含めて扱う。
七つの月
ヴィサヤ地方の伝承によれば、かつて天には七つの月があった。海に住むバクナワはその美しさに惹かれ、海から躍り上がっては月を一つずつ呑み込んでいき、ついに六つを呑んで、最後の一つだけが残った。人々は鍋や銅鑼を打ち鳴らしてバクナワを驚かせ、月を吐き出させた。神々が竹で月を覆って守ったとする版もある。月食が起こるたびに、バクナワがまた最後の月を呑もうとしているのだとされた。
蝕を呑むもの
天体が欠ける蝕を、怪物が天体を呑むことで説明する伝承は、ユーラシアに広く見られる。インドのラーフ、中国の天狗が日を食べるという話、北欧で太陽と月を追う狼スコルとハティなどである。バクナワは、インドのラーフの観念がフィリピンに伝わったものとする説がある。一方、海から現れる大蛇という姿は、在来のものと考えられる。蝕のときに音を立てて天体を守る習わしは、東南アジアの各地に共通している。
暦としての竜
バクナワは、月ごとに頭の向きを変えるとされた。家を建てるときは、その頭の向く方角を避けたという。この暦を管理したのは、ババイランと呼ばれる女性の祭司たちであった。竜の動きが、暦と方位の体系として働いていたのである。
図像と象徴
本サイトが掲げるのは、フィリピンのヴィサヤ地方パナイ島・ネグロス島一帯の古い刀で、柄頭にバクナワの意匠が彫られている。
伝統的な舟の舳先や刀の柄に、竜の意匠が刻まれてきた。
関わる伝承
ラーフと比べられ、バタラとともにフィリピンの神話に属する。
文化的足跡
バクナワは、今日のフィリピンの文学、美術、大衆文化で最もよく知られた神話上の存在である。
なお東南アジアの伝統は今日も継承されている生きた文化であり、本項の記述はその伝承に関する学術的な整理である。