コカトリス
コカトリクス
中世西ヨーロッパの怪物で、バジリスクの双子とも言える存在。雄鶏の卵から孵るとされ、鶏の頭と蛇の尾をもち、視線や吐息で人を殺すとされた。欽定訳聖書や紋章に登場する。
解説
概要
コカトリス(cockatrice)は、中世西ヨーロッパの伝承に現れる怪物で、鶏の頭と脚に蛇または竜の胴尾をもつ合成獣である。古代のバジリスクから派生し、中世を通じてほぼ同一の存在として語られた。視線・吐息・接触のいずれもが致命的で、その通り道では草木が枯れ、水が毒に染まるとされた。
由来と物語
名は古フランス語のcocatrisに由来し、中英語を経て英語のcockatriceとなった。基本的な生態はバジリスク譚を受け継ぐが、その誕生には独特の伝承が加わる。老いた雄鶏がまれに産む卵を、蟾蜍または蛇が温めると孵るというもので、自然の理に反した不吉な出生が、この怪物の邪悪さの証とされた。
天敵はバジリスクと同じく鼬(いたち)である。加えて、雄鶏の鬨の声を聞くと絶命するとされ、自らの出自の一部たる鶏の声によって滅びるという逆説が語られた。
図像と象徴
図像上は、鶏冠と嘴、二本の鶏脚をもち、鱗に覆われた翼と、しばしば矢じり状の尖端をもつ蛇尾で表される。バジリスクが蛇の性格を色濃く残すのに対し、コカトリスは鶏すなわち鳥の特徴を強調する点に差がある。
英語圏で広く知られたのは、聖書の翻訳を通じてであった。ラテン語ウルガタ訳がbasiliscusとした語を、1611年の欽定訳聖書はcockatriceと訳した。イザヤ書やエレミヤ書に現れるこの語は、毒蛇に対する古い恐怖を近世英語に伝え、この怪物の名を人口に膾炙させた。
関わる伝承
紋章学において、コカトリスは翼と蛇尾をもつ雄鶏の姿で表され、警戒と威嚇の象徴として印刷業者の標章や家門の紋章に採用された。中世の道徳的寓意では、その不浄な出生ゆえに、しばしば欲望や異端の象徴と結び付けられた。
文化的足跡
コカトリスとバジリスクの境界は、時代とともに揺らぎ続けた。両者を截然と分ける定義は近代の幻想作品が整えたもので、古い伝承では互換的に用いられることが多い。今日ではファンタジー小説やゲームに幻獣として登場し、しばしば鶏と竜を合わせた姿に造形されるが、これは中世の合成獣像を下敷きにした後世の再解釈である。