アンタボガ
アンタボガ · アナンタボーガ · ジャワの竜蛇
ジャワとスンダの大蛇の神。時の始まりに唯一存在し、瞑想して世界を支える亀ベダワンを生んだ。シェーシャと同一視され、稲の女神デウィ・スリの誕生に関わる。ワヤンでは地底の王としてパンダワを救い、娘ナーガギニをビーマに嫁がせる。
解説
概要
アンタボガ(古ジャワ語アナンタボーガ)は、ジャワとスンダの信仰に伝わる大蛇の神で、のちにバリのヒンドゥー教にも取り入れられた。時の始まりにただ一柱存在し、瞑想によって世界を支える亀ベダワンを生み出したとされる。ワヤン(影絵芝居)では、地の底の第七層の世界サプタプラタラを治める蛇の王として、パンダワの英雄たちと縁を結ぶ。
なお本サイトの分類では、東南アジアの神話の体系に含めて扱う。
尽きない糧
名は古ジャワ語の「アナンタボーガ」に由来し、「尽きることのない糧」を意味する。バリの文献には、サンスクリット語のアナンタ(「無限の」)とボーガ(「享受」)から成る語とする説明もある。インドで世界を支える大蛇シェーシャは別名をアナンタといい、アンタボガはこの蛇と同一視される。
世界の始まりと稲の女神
ジャワとバリの神話では、はじめに存在したのはアンタボガだけであった。アンタボガが瞑想すると亀ベダワンが現れ、そこから他のあらゆるものが生じた。バリの宇宙観では、アンタボガが世界の底に横たわり、その上に亀ベダワンが乗り、さらにその上に世界がある。
スンダの『ワワチャン・スランジャナ』によれば、アンタボガの流した涙が卵となり、そこから稲の女神デウィ・スリが生まれた。
ワヤンの蛇の王
ワヤンのアンタボガは、ふだんは人の姿で現れ、怒ると巨大な竜蛇に変わる。妻デウィ・スプレティとのあいだに、男子バンバン・ナーガタトマラと女子デウィ・ナーガギニがある。
演目『バレ・シガラガラ』では、宿舎に火を放たれたパンダワの五兄弟と母クンティーを、白いマングースに化けて地下へ導き、救い出す(化けたのは子のナーガタトマラとする版もある)。地下の王国で、ナーガギニはパンダワの一人ブラタセナ(ビーマの若い頃の名。のちのウルクダラ)の妻となり、その子アンタレジャが生まれる。インドの『マハーバーラタ』にはない、ジャワのワヤン独自の筋である。
図像と象徴
本サイトが掲げるのは、19世紀のバリの画家イ・クトゥット・グデによる素描で、若者ジュアルサが蛇アンタボガの前に跪く場面である(ライデン大学図書館蔵、ファン・デル・トゥーク・コレクション)。
ジャワの美術では、冠をいただいた大蛇として表される。ガムランのゴングの枠、クリスの装飾、寺院の扉や階段の手すりなどに、竜蛇の意匠として繰り返し現れる。ジャワに棲む在来の蛇(Xenodermus javanicus)への古い崇敬が、この神の源の一つとみる説もある。
関わる神格・伝承
シェーシャと同一視される。デウィ・スリの誕生に関わり、娘ナーガギニを通じてビーマの舅となる。
文化的足跡
バリの寺院で至高の原理を祀る空の玉座パドマサナの基壇には、亀ベダワン・ナラと、それに巻きつく竜蛇が彫られる。世界を支えるものが、玉座を支える姿で表されているのである。
なおジャワ・バリの信仰は今日も継承されている生きた伝統であり、本項の記述はその伝承に関する学術的な整理である。
領分・別名
親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承/点線=異伝・別系統。