アドレト
アドレト · エルキグドレト · Adlet
イヌイト神話の人型で犬の脚を持つ種族。求婚者を拒んだ女が犬と結婚して生んだ十人の子のうち、半人半犬の五人が内陸へ行ってアドレトに、犬の姿の五人が海を渡ってヨーロッパ人の祖になったとされる。他者の起源を説明する物語。
解説
概要
アドレト(エルキグドレト)は、グリーンランド、およびラブラドルとハドソン湾岸のイヌイト神話における生き物の種族である。
この語は内陸の先住民の部族を指すが、同時に人型で犬の脚を持つ種族をも指す。犬のアドレトの下半身は犬のようであり、上半身は人のようである。アドレトはみな速く走り、人との遭遇はたいてい人の勝利で終わる。
なお本サイトの分類では、北米先住民の体系に含めて扱う。
起源譚
イヌイトの伝承によれば、アドレトは女と犬のあいだに生まれた。
女と犬。 ある女が求婚者をすべて拒んだため、父が犬と結婚させた。
十人の子が生まれた。五人は犬の姿、五人は半人半犬であった。
追放。 母は子らを舟に乗せて海へ流した。
犬の姿の子らは海を渡り、ヨーロッパ人の祖となった。半人半犬の子らは内陸へ行き、アドレトとなった。
他者の起源。 イヌイトから見た他者——内陸の先住民とヨーロッパ人——が、同じ物語のなかで説明される。
セドナの物語との重複。 求婚者を拒む娘、犬との結婚、海へ流されるという要素は、セドナの物語と重なる。
同じ枠組みが、異なる結末で二つの物語を生んでいる。
他者を語る物語
アドレトの物語は、他の集団をどう理解するかという問題に関わる。
内陸の民。 イヌイトは海岸に住み、内陸には別の先住民(デネ諸族など)が住んでいた。両者は敵対することが多かった。
ヨーロッパ人。 接触以後、ヨーロッパ人もこの物語に組み込まれた。
注意。 この物語は、他集団を犬の子孫とする内容を含む。イヌイト自身の世界理解の記録として扱うべきであり、他集団への評価としてそのまま受け取るべきものではない。
図像と象徴
固有の図像は伝わらず、本サイトも主画像を掲げない。
半人半犬という姿は、ヨーロッパの犬頭人(キュノケパロイ)、日本の犬神と形は似るが、系譜関係はない。
関わる伝承
セドナの物語と要素を共有する。
文化的足跡
日本語圏でこの名が挙げられることは少ない。イヌイトの民族誌において言及される。
なお北米先住民の伝統は今日も継承されている生きた文化であり、本項の記述はその伝承に関する学術的な整理である。物語のうちには氏族や個人の所有物として扱われるものがあり、公開の場で語ることが適切でない場合がある。