アチンティヤ
アチンティヤ · サン・ヒャン・ウィディ・ワサ · Acintya
インドネシアのヒンドゥー教における思惟を超えた至高の原理で、サン・ヒャン・ウィディ・ワサとも呼ばれる。建国五原則の「唯一なる神への信仰」の要件を満たすため、20世紀にバリのヒンドゥー教の指導者が唯一神として前面に立て、他の神々をその顕現とした。寺院の空の玉座で表される。
解説
概要
アチンティヤ(「思いはかることのできないもの」)は、インドネシアのヒンドゥー教における至高の原理で、サン・ヒャン・ウィディ・ワサ(「全能の神」)とも呼ばれる。言葉や形を超えた究極の存在を表し、バリの寺院では、誰も坐らない空の玉座によって示される。20世紀、インドネシアの国家が宗教に求めた「唯一神」の要件に応えるなかで、この神は大きく前面に押し出されることになった。
なお本サイトの分類では、東南アジアの神話を主たる体系とし、ヒンドゥーを併記する。
唯一神の要請
インドネシアの建国の五原則パンチャシラは、第一に「唯一なる神への信仰」を掲げている。国家に公認される宗教には、唯一の神を持つことが求められた。多くの神々を祀るバリのヒンドゥー教は、この要件を満たさないとみなされたのである。
そこで1950年代から60年代にかけて、バリのヒンドゥー教の指導者たちは、サン・ヒャン・ウィディ・ワサを唯一の神として前面に立て、ほかの多くの神々はこの唯一神のあらわれであると説明した。こうして1962年、バリのヒンドゥー教(アガマ・ヒンドゥー・ダルマ)は公認宗教として認められた。国家の宗教政策が、神学のありようを形づくったのである。
古くからの観念
サン・ヒャン・ウィディの観念そのものは、それ以前からバリやジャワにあった。20世紀に変わったのは、その位置づけと強調のしかたである。この神は、インドのヴェーダーンタ哲学における究極の実在ブラフマンに重ねて説明された。
空の玉座
バリの寺院には、パドマサナと呼ばれる玉座が置かれている。その玉座には像がなく、何も置かれない。形を持たない神は、空であることによって表されるのである。一方で、炎に包まれ、両手を広げて舞う裸の人の姿でアチンティヤを表した図像もあり、玉座の背に刻まれることがある。
図像と象徴
本サイトが掲げるのは、バリの寺院に表されたアチンティヤの像である。
関わる神格・伝承
ブラフマンに重ねられる。デウィ・スリやデウィ・ダヌを含むすべての神々は、そのあらわれとされる。
文化的足跡
「サン・ヒャン・ウィディ」は、今日のバリで神を指すごく一般的な言葉である。
なお東南アジアの伝統は今日も継承されている生きた文化であり、本項の記述はその伝承に関する学術的な整理である。