ビチャマ
ビチャマ · Vichama
インティの子である死の神で、異母兄弟パチャカマックに母を殺された。復讐にパチャカマックの創った人間を岩と島に変え、太陽の送った金銀銅の三つの卵から首長・貴族の女・平民が生まれた。ペルー中部海岸の伝承である。
解説
概要
ビチャマは、ペルー中部の海岸地方の伝承に語られる、太陽の神インティの子である。母を異母兄弟のパチャカマックに殺された復讐として、パチャカマックが造った人々をすべて岩や島に変えた。その後、太陽が送った金と銀と銅の三つの卵から新しい人々が生まれ、卵の違いがそのまま社会の身分の違いになったという。インカの高地の神話とは異なる、海岸地方の伝承を伝えるものである。
なお本サイトの分類では、インカ/アンデスの体系に含めて扱う。
母の仇
カランチャの伝える話では、はじめにパチャカマックが最初の男女を造ったが、食物を与えなかったため男は飢えて死んだ。残された女が太陽に訴えると、太陽は光によって彼女に子を授けた。これを怒ったパチャカマックは生まれた子を殺して切り刻み、その歯や骨や肉を播いてトウモロコシやユカなどの作物に変えた。太陽は、その子の臍(へその緒)から子を蘇らせた。これがビチャマである。
ビチャマが成長して旅に出ているあいだに、パチャカマックは母を殺し、その体を切り刻んでコンドルやハゲワシに与え、髪と骨を海辺に隠した。戻ったビチャマは母を蘇らせ、パチャカマックを追ったが、パチャカマックは海へ逃れた。ビチャマは、パチャカマックが造った人々を母殺しの加担者として岩や島に変え、首長たちが変じた石はワカとして祀られることになった。
三つの卵
大地から人がいなくなったため、太陽は三つの卵を送った。金の卵からは首長(クラカ)が、銀の卵からは貴族の女性が、銅の卵からは平民が生まれた。卵の材質が、そのまま社会の身分に対応しているのである。
パチャカマックの神殿
パチャカマックとビチャマの争いは、地域どうしの対立を映したものと考えられる。リマの南にあるパチャカマックの巨大な祭祀遺跡は、アンデスで最大級の巡礼地であった。インカはこの地を征服したのちも、その神託を尊重し、太陽の神殿を並べて建てた。土地の神を排除せず、そこに自らの神を加えるのが、インカの治め方であった。
海岸の伝承
この物語は、アウグスティノ会の修道士アントニオ・デ・ラ・カランチャの年代記(1638年)に記録されている。高地のインカの神話とは異なる、海岸地方の伝統を伝えるものである。「インカ神話」とひとまとめにされるものが、実際にはさまざまな地域の伝統の集まりであることを示している。
図像と象徴
固有の図像は伝わらず、本サイトも主画像を掲げない。
関わる神格・伝承
インティの子であり、パチャカマックの異母兄弟である。
文化的足跡
パチャカマックの遺跡は、今日も考古学公園として公開されている。
なおアンデスの伝統は今日も継承されている生きた文化であり、本項の記述はその伝承に関する学術的な整理である。
領分・別名
親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承/点線=異伝・別系統。