ティートーノス
ティトノス · ティートーノス · Tithonus
暁の女神エーオースの恋人となったトロイアの王子。女神が不死を願ったが不老を願い忘れたため、死ぬことなく老い続け、ついに声だけが残って蝉に変えられたという。テニスンの詩『ティトーノス』の主題。
解説
概要
ティートーノス(Τιθωνός / Tithonos)は、トロイア王ラーオメドーンの子で、プリアモスの兄弟にあたる王子である。暁の女神エーオースにさらわれてその夫となり、女神の願いで不死を得たが、不老を願い忘れられたために、死ぬことなく老い衰えていった。
神話・物語
この話を最も古く語るのは『ホメーロス風讃歌』第5歌(アプロディーテー讃歌)である。アプロディーテーは、愛した人間アンキーセースに向かって、なぜ彼を不死にしないのかを説明するためにこの例を引く。
黄金の玉座の女神エーオースはティートーノスを見初めてさらい、ゼウスに彼を不死にしてくれるよう願った。願いは聞き届けられたが、女神は若さを保つことを願わなかった。若いうちは大地の果て、オーケアノスの流れのほとりで二人は暮らしたが、白髪が混じりはじめると、女神は寝床を共にしなくなった。やがて手足を動かすこともできなくなると、女神は彼を奥の部屋に置いて扉を閉ざした。そこからは、力の失せた声だけが絶えず漏れてきたという。
後代の伝えでは、ティートーノスは最後に蝉に変えられた。乾いた声で鳴き続ける蝉の姿が、衰えてなお声だけが残る老人に重ねられている。
二人の子には、アイティオピアの王としてトロイアに援軍を率いたメムノーンと、エーマティオーンがいる。
図像と象徴
本サイトの主画像は、ボストン美術館蔵の赤絵式キュリクス(95.28)で、エーオースが若いティートーノスを追う場面を描く。
有翼の女神が逃げる若者を追うこの図は、前5世紀のアテーナイの壺絵で繰り返し描かれた。女神が人間の男を追うという、通常とは逆の構図である。若者はしばしば竪琴を手にしており、画家たちがティートーノスを歌い手として思い描いていたことがうかがえる。
系譜と関係
父はラーオメドーン、母は河神スカマンドロスの娘ストリューモー。兄弟はプリアモス。妻はエーオース。子はメムノーンとエーマティオーン。
文化的足跡
2004年に公刊されたサッポーの詩の断片(ケルン・パピルス)は、老いを嘆く語り手がティートーノスの例を引くもので、この神話が古くから老いの嘆きの典型であったことを示す。テニスンの劇的独白『ティトーノス』(1860年)は、不死のまま老いてゆく苦しみを本人に語らせ、英詩における老いの表現の代表作の一つとなった。
領分・別名
親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承/点線=異伝・別系統。