ソン・ティンとトゥイ・ティン
ソン・ティン · トゥイ・ティン · 山精
ベトナムの神話で、山の神ソン・ティンと水の主トゥイ・ティンが雄王の娘を争った。王が山の産物ばかりを婚資に求めたため山の神が先に着いて娶り、怒った水の主は毎年雨季に洪水を起こして攻めるが、そのたびに山の神が山を高くして退ける。紅河の洪水と堤防の文明の神話化である。
解説
概要
ソン・ティン(山精)とトゥイ・ティン(水精)は、ベトナムの神話に登場する山の神と水の主である。二柱は雄王の娘をめぐって争い、先に婚資を届けた山の神が王女を娶った。敗れた水の主は毎年の雨季に洪水を起こして攻め寄せ、そのたびに山の神が山を高くして退ける。ベトナム北部の紅河を毎年襲う洪水と、それに抗って堤防を築いてきた人々の営みを語る神話とされる。
なお本サイトの分類では、東南アジアの神話の体系に含めて扱う。二柱が組で語られるため群記事とする。
王女をめぐる争い
十八代目の雄王(ラック・ロン・クアンの子孫)には、ミー・ヌオンという美しい娘がいた。山の神ソン・ティンと水の主トゥイ・ティンがともに求婚し、二柱の力は互角であった。王は、翌朝最初に婚資を持ってきた者に娘を与えると告げた。求められた品は、百皿のもち米、百個の餅、九本の牙を持つ象、九つの蹴爪を持つ鶏、九色のたてがみの馬である。いずれも山で得られるものであった。夜明けとともにソン・ティンが品を揃えて現れ、王女を娶った。婚資に山の産物を求めた時点で、王はすでに山の神を選んでいたことになる。
毎年の洪水
遅れて着いたトゥイ・ティンは怒り、軍勢を率いて攻め寄せた。雨を降らせ、水を高く上げて洪水を起こしたが、ソン・ティンは水が上がるたびに山を高くして防いだ。力尽きたトゥイ・ティンは退いたが、以後、毎年雨季になると王女を取り戻そうと攻めてくる。北部ベトナムの紅河のデルタを毎年襲う洪水が、神々の争いとして語られているのである。
堤防とともに生きる
ベトナムの人々は、千年以上にわたって紅河に堤防を築き続けてきた。この物語は、洪水と戦い続ける人々の営みを神話にしたものと考えられている。一度勝てば終わるのではなく、毎年戦い続けなければならないという点に、その営みの性格がよく表れている。
図像と象徴
固有の図像は伝わらず、本サイトも主画像を掲げない。
関わる伝承
雄王の婿となった山の神は、タイン・ゾンとともに四不死の一柱に数えられる。
文化的足跡
この物語はベトナムの小学校の教科書に収められ、すべての子供たちが学んでいる。
なお東南アジアの伝統は今日も継承されている生きた文化であり、本項の記述はその伝承に関する学術的な整理である。