スマル
スマル · サン・ヒャン・イスマヤ · Semar
ジャワのワヤン(影絵芝居)の道化で、インドの『マハーバーラタ』にないジャワ固有の人物。本来は神サン・ヒャン・イスマヤであり、兄弟のバタラ・グル(シヴァ)と争って地上に降り、醜い道化の姿でパーンダヴァ五兄弟に仕える。英雄や神々を笑いの形で批判し、民衆の声を代弁する。
解説
概要
スマルは、ジャワの影絵芝居ワヤンに登場する道化で、インドの叙事詩『マハーバーラタ』には現れない、ジャワ固有の人物である。太った体に白い顔、突き出た尻という滑稽な姿で英雄たちに仕えるが、その正体は神サン・ヒャン・イスマヤだとされる。道化の姿で英雄や神々をも諫めるスマルは、ジャワで最も愛される人物であり、土地の守護霊としても敬われている。
なお本サイトの分類では、東南アジアの神話の体系に含めて扱う。
英雄に仕える道化
ワヤンで演じられる『マハーバーラタ』の物語では、パンダワ(パーンダヴァ)の五兄弟に、スマルと三人の息子ガレン、ペトゥルック、バゴンが仕える。彼らはプノカワンと呼ばれる道化の従者たちである。このプノカワンは、インドの原典には登場しない。ジャワでワヤンに翻案される際に加えられた、土地の人物たちである。
道化になった神
スマルは、もとは神サン・ヒャン・イスマヤであった。兄弟のバタラ・グル(ジャワにおけるシヴァ)と神々の世界で地位を争い、地上に降りて、醜い道化の姿で人に仕えることになったという。一つの卵から三兄弟が生まれ、殻が別の道化トグッグに、白身がスマルに、黄身がバタラ・グルになったとする版もある。男とも女ともつかない、太った体に垂れた胸、白い顔、突き出た尻を持つその姿は、神が最も卑しい姿をとっていることを示している。
笑いで諫める
劇のなかで、スマルは英雄たちばかりか神々さえも批判する。道化の冗談という形をとって、力を持つ者を諫めるのである。スマルが怒れば神々さえ恐れるとも言われる。スマルは、支配者に向けた民衆の声を代弁する存在と受け取られてきた。
イスラームのジャワで
ジャワはのちにイスラーム化したが、ワヤンは生き残った。ジャワにイスラームを広めた九人の聖者ワリ・ソンゴは、ワヤンを布教に用いたと伝えられる。ヒンドゥー以前の神が、道化の姿で、イスラームの社会のなかに生き続けたのである。
図像と象徴
本サイトが掲げるのは、ワヤン・クリ(革製の影絵人形)のスマルである。
関わる神格・伝承
バタラ・グルの兄弟とされ、パンダワの五兄弟に仕える。
滑稽なものが聖なるものと結びつく例は、イヌーの人々の「屁の神」マッシシカペウにも見られる。
文化的足跡
ワヤン・クリは2003年にユネスコの無形文化遺産に登録された。スマルは今日もジャワで最も愛される人物である。
なお東南アジアの伝統は今日も継承されている生きた文化であり、本項の記述はその伝承に関する学術的な整理である。
領分・別名
親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承/点線=異伝・別系統。