ピーエロス
ピエロス · ピーエリデスの父 · Pierus
ギリシア神話の二人の人物の名。ピーエリアの名祖で、ムーサに挑んで鵲に変えられた九姉妹ピーエリデスの父、およびクレイオーとのあいだにヒュアキントスをもうけた者。
解説
概要
ピーエロス(Πίερος)は、ギリシア神話に現れる二人の人物の名である。
同名の人物たち
ピーエリアの名祖。 マケドノスの子であり、ピーエリデスの父とされる。北方のエマティアの王で、エウイッペーとのあいだに九人の姉妹ピーエリデスを産んだ。
この九人はムーサたちに歌を挑み、敗れて鵲(かささぎ)に変えられた。オウィディウス『変身物語』第5巻が語る挿話である。
マグネースの子。 テッサリアのマグネースの子で、マケドニアのペラ(ピーエリス)の王。ムーサの一人クレイオーとのあいだにヒュアキントスを産んだ。クレイオーの恋人であったとされる。
図像と象徴
固有の図像は伝わらず、本サイトも主画像を掲げない。
ピーエリアという地名が、この名の核心である。オリュンポス山の北麓にあたるこの地方は、ムーサたちの生地とされた。ヘーシオドス『神統記』は、ムーサたちがピーエリアでゼウスとムネーモシュネーのあいだに生まれたと記す。
したがってピーエリデス(ピーエリアの娘たち)は、本来ムーサたちの添え名である。同じ名がムーサに挑んで敗れた九人の姉妹にも与えられているのは、伝承の混線とみられる。勝った側と負けた側が同じ名で呼ばれるという事態が生じている。
関わる神格・伝承
第一の子はピーエリデス、第二の子はヒュアキントス、恋人はクレイオー。
ムーサたちと歌を競って敗れ、鳥に変えられるという型は、テュポーンの娘たちやセイレーンの挿話にも見られる。ムーサに挑むことは冒瀆であり、必ず罰せられる。
文化的足跡
「ピーエリアの泉」という句は、詩の霊感の源を指す表現として英語圏の文学に定着した。アレグザンダー・ポープ『批評論』の「僅かな学識は危険なもの、深く飲むかピーエリアの泉に口をつけるな」という一節が、その代表である。
日本語圏でこの名が挙げられることはまずない。しかしムーサたちの生地の名祖として、詩の伝統の起源に関わる位置にある。