ナウシカアー
ナウシカア · ナウシカ · Nausikaa
『オデュッセイア』に登場するパイアーケス人の王女。浜に漂着した裸のオデュッセウスを助け、宮廷へ導いて帰国の道を開いた。
解説
概要
ナウシカアー(Ναυσικάα / Nausikaa)は、スケリア島を治めるパイアーケス人の王アルキノオスと王妃アーレーテーの娘である。『オデュッセイア』第6巻から第8巻に登場し、漂着したオデュッセウスを助けて宮廷へ導く。
彼女の場面には怪物も魔法も出てこない。洗濯と球遊び、衣を貸すこと、人目を避けて別々に町へ入るようにという助言——日常の作法だけで話が進む数少ない部分であり、そのことが古来この巻を際立たせてきた。
神話・物語
アテーナーが夢で促し、彼女は侍女たちと川辺へ洗濯に出る。仕事を終えて球で遊んでいると球が水に落ち、その叫び声で、木の葉に埋もれて眠っていた裸の男が目を覚ます。侍女たちは逃げ散ったが、彼女だけは踏みとどまった。
オデュッセウスは膝に取りすがる代わりに、離れた場所から言葉で嘆願する。彼女を女神アルテミスになぞらえ、いずれ彼女を娶る男の幸福を祝ってみせるという、迂回した弁論である。彼女は衣と油を与え、食事をさせ、城への道を教える。ただし一緒に町へは入れない。噂を立てられるからである。父アルキノオスは、この客が娘の婿になればよいと考えるが、オデュッセウスには帰るべき妻がいた。
別れに際して彼女が言うのは短い一言だけである。故国に帰っても、命を救ったのが自分であったことを忘れないでほしい。恋の成就も破局も語らずに退場するこの造形は、叙事詩のなかでは例が少ない。
図像と象徴
古代の作例は乏しい。銘を伴う確実な壺絵は知られておらず、洗濯場での出会いという主題が、神々や怪物の場面ほどの需要を持たなかったことによる。
本ページの主画像はピーテル・ラストマンの《オデュッセウスとナウシカアー》(1619年、ミュンヘン・アルテ・ピナコテーク)で、古代ではなくバロックの解釈である。ラストマンはレンブラントの師にあたり、この主題は17世紀オランダ絵画で好まれた。近代にもベックリン、ハイエツ、コリントらが繰り返し取り上げている。
系譜と関係
父アルキノオス、母アーレーテー。パイアーケス人はポセイドーンの血を引くとされ、舵を要さず思うところへ進む船を持つ。オデュッセウスを送り届けたことで海神の怒りを買い、帰路の船は岩に変えられた。彼女の親切は、結果として国に代償を払わせている。
後代には、テーレマコスと結ばれてペルセプトリスを生んだとする説も現れる(アリストテレスに帰される断片)。
文化的足跡
スケリア島は古代からケルキラ(コルフ)島に比定されてきた。19世紀末にはサミュエル・バトラーが、『オデュッセイア』の作者をナウシカアー自身に擬する説を唱えている。日本では、宮崎駿が『風の谷のナウシカ』の主人公名をこの王女から取ったことでも知られる。