リホ
リーホ · リハ · リホ・アドノグラーザエ
東スラヴの昔話に現れる悪運と不幸の化身。多くは一つ目の痩せた老婆として描かれる。神々の列には入らず、ことわざと昔話のなかに生きている。
解説
概要
リホ(Лихо、ベラルーシ語 ліха、ポーランド語 licho、ウクライナ語 лихо)は、スラヴ圏、とりわけ東スラヴの昔話に現れる悪運と不幸の化身である。多くは一つ目の、痩せこけた黒衣の老婆として描かれ、森に住む男の妖鬼として語る土地もある。
神々の列に加えられることはない。リホが生きているのは昔話とことわざのなかであり、この存在の輪郭を決めているのは神話ではなく言葉である。
神話・物語
人がリホに出会う話には、いくつかの型がある。
一つ目は、人が知恵でリホを出し抜く型。二つ目は、出し抜いて逃げる途中で高価な品を見つけ、欲を出して掴んだ手が離れなくなり、その手を切り落として逃げる型。三つ目は、リホのほうが人を騙して首に乗り、振り落とせなくなる型である。この場合、リホごと溺れさせようとして川へ飛び込んだ男は自分だけが死に、リホは浮かび上がって次の獲物を探しにいく。四つ目は、贈り物とともに他人へ譲り渡される型である。不幸が伝染するものとして扱われている点が、この型の要である。
ロシアの昔話「一つ目のリホ」では、痩せた一つ目の女巨人の人食いとして現れる。鍛冶屋と仕立屋がその住処に迷い込み、仕立屋が食われ、鍛冶屋は熱した鉄で目を潰して羊の皮をかぶり、群れに紛れて逃げる。この筋がホメーロスのポリュペーモス譚と共通することは早くから指摘されており、世界の昔話が共有する型の一つと見られている。
迷信の側では、リホは人のところへやって来て人を食うものとされ、バーバ・ヤーガと同じく、幼い子を怖がらせるのに用いられた。ウクライナの民間伝承では、人の首にしがみつく悪しき霊の一種として語られることもある。
図像と象徴
古い図像はない。本項の主画像は、現代の画家マレク・ハポンによる想像図である。一つ目という徴が、この存在について語られるほとんど唯一の視覚的な特徴である。
一つ目、痩身、片腕といった身体の欠損は、意味を持っている。ロシア語のリホは「悪、不幸」を指すが、もとの意味は「余った、余分な」であった。スラヴ祖語 *leikṷ-「残す」に遡り、「余計な(ли́шний)」「欠乏(лишения)」と同じ語根から出ている。指が六本ある、歯が余分に生えているといった身体の異常を持つ者を、民間では「余計な者」と呼び、不運を運ぶと考えた。リホがしばしば身体の欠損をもって描かれるのは、この語感の反映である(セルビア・クロアチア語の лихорук「片腕の」と比べられる)。
余りもの、奇数、はみ出したもの——それが不運と結びつく。ロシアの「チョトノ・イ・リホ(偶数と奇数)」という賭けごとの名にも、この対が残っている。
系譜と関係
系譜はない。昔話のなかでリホは、しばしばゴーレ(горе、悲嘆)の形象と重なる。リホが人のそばにいるかぎり、その人にはあらゆる不幸が降りかかる。
近隣の言語での意味の広がりを見ると、この語がどこまでを覆っていたかが分かる。チェコ語の lichý は「奇数の、無為の、空しい」、ポーランド語の lichy は「粗末な、貧しい、脆い」、ベラルーシ語の ліхі は「悪い、邪な」、ウクライナ語では不運や災難を指す。ロシア語の派生語も広い。リホイーメツ(収賄者)、リホジェイ(悪党)、リホラートカ(熱病)、リホレーチエ(動乱の時代)、リハーチ(無鉄砲な者)。他方で形容詞リホーイは「勇ましい、大胆な」という肯定的な意味も持ち、「リホーイな騎手」といえば見事な乗り手を指す。
余分さは、災いにも豪胆にもなる。この語の両義性は、リホという存在が善悪のどちらにも収まりきらないことと対応している。
文化的足跡
この名が最もよく生きているのはことわざのなかである。ロシア語とウクライナ語の「静かにしているうちはリホを起こすな(Не буди лихо, пока оно тихо)」は、触らぬ神に祟りなしにあたる。ポーランド語の「静かに、リホは眠っていない(Cicho! Licho nie śpi)」、「リホのみぞ知る(Licho wie)」も日常語である。ロシア語の「リホムに思い出すな(Не поминай лихом)」は、別れ際に「悪く言わないでくれ」と告げる決まり文句である。
1930年、画家ヴィクトル・デーニは、詩人デミヤン・ベードヌイの詩句を添えた禁酒の宣伝画に「一つ目の悲嘆リホ」の語を用いた。緑の蛇に巻かれた酔漢の顔を描いたこの一枚は、昔話の怪異ではなく慣用句としてのリホを図にしたものである。
現代のゲームや漫画にも一つ目の怪異として登場するが、そこでは往々にして固有の神格として扱われる。もとは「余りもの」を意味する普通名詞であったことを踏まえておくと、この存在の輪郭が見えやすくなる。