レヤック
レヤック · レアック · Leyak
バリの伝承の妖術者。黒魔術を修めた人間が夜に首を胴から抜け出させ、内臓を垂らして飛び、胎児や赤子を狙う。魔女ランダに仕え、その原型であるチャロナランの物語は舞踊劇として上演される。
解説
概要
レヤック(Leyak)は、インドネシアのバリ島の伝承に語られる妖術者である。黒魔術を修めた人間が、夜になると姿を変え、首が胴から抜け出して内臓を垂らしたまま、光る玉のように飛び回るとされる。妊婦の胎児や生まれたばかりの赤子を狙うと恐れられた。バリの魔女ランダに仕える者たちとされ、東南アジアとヒンドゥーの伝統が交わるバリの舞踊劇では、聖獣バロンと戦う。
神話・物語
レヤックは生まれながらの怪物ではない。昼は村人として暮らし、夜に呪術で変身する。浮遊する首のほか、猿や豚、鳥などの獣の姿をとるとも、墓場で死体を食べて力を得るとも言われる。
その頭目とされるランダの原型は、ジャワの『チャロナラン』の物語である。11世紀のアイルランガ王の時代、ギラの寡婦チャロナランは、恐れられて娘ラトナ・マンガリに求婚者が現れないことに怒り、女神ドゥルガーに祈って弟子たちとともに疫病を広めた。王は聖者ムプ・バラダを遣わす。バラダの弟子バフラがラトナ・マンガリと結婚して呪術の書を盗み出し、それによってバラダはチャロナランを打ち破った。この物語は16世紀の写本で伝わる。
図像と象徴
舞踊劇の仮面では、垂れた舌と乳房、長い爪をもつランダの姿が、レヤックの頭目を表す。主画像はバリのランダ像である。
系譜と関係
首が内臓を垂らして飛ぶ同じ型の妖怪は、タイのクラスー、マレーシアのプナンガランとして語られる。宗教の異なる地域に共通することから、この型を東南アジアに古くからある在来の信仰の層に属するとみる見方がある。
文化的足跡
バリでは、チャロナランの舞踊劇が寺院の祭礼で上演され、ランダとバロンの戦いはどちらの勝利でもなく終わる。レヤックの仮面や像は、工芸品としても広く作られている。
なお東南アジアの伝統は今日も継承されている生きた文化であり、本項の記述はその伝承に関する学術的な整理である。