時輪
カーラチャクラ · 時輪タントラ · 時輪金剛
インド密教で最後に成立したタントラとその主尊。天体・人体・修行を対応させる三つの時輪からなり、チベット暦の基礎。北方の理想国シャンバラの王が法を回復するという予言を含む。灌頂は大衆に公開される。
解説
概要
『時輪タントラ』(カーラチャクラ・タントラ)は、インド後期密教のカーラチャクラ(時輪教)の教えの仏教タントラ文献であり、その主尊の名でもある。インド密教の経典、仏教タントラ文献で一番最後に成立したとされる。
カーラチャクラは、密教とヒンドゥー教における多義的な用語であり、「カーラ」は「時間」を、「チャクラ」は「輪」を意味し、「時の輪」または「時間のサイクル」を意味する。
特徴
成立は11世紀初頭とされ、他の後期密教経典より三世紀ほど遅い。この遅い成立が、この教えに独自の性格を与えている。
三つの時輪。 外の時輪(天体の運行、暦、宇宙論)、内の時輪(人体の気と脈管)、別の時輪(灌頂と修行)の三層で構成される。外界と身体と修行を対応させる体系である。
天文と暦。 カーラチャクラは詳細な暦法を含み、チベット暦はこれに基づく。天体の運行の計算法が、宗教文献のなかに記されている。
シャンバラ。 北方にシャンバラという理想の王国があり、そこで時輪の教えが保たれているとされる。将来、シャンバラの王が軍を率いて出現し、法を回復するという予言が説かれる。
イスラーム勢力のインド侵入を背景に成立したとみられ、経典には「蛮族」(ムレッチャ)への言及がある。終末と回復の予言を含む点で、他の密教経典と性格を異にする。
図像と象徴
本サイトが掲げるのは、カーラチャクラとヴィシュヴァマーターの曼荼羅である(チベット)。
主尊カーラチャクラは四面二十四臂で、配偶者ヴィシュヴァマーターと抱擁する。二十四の手はそれぞれ異なる色に塗られ、時間の単位に対応する。
曼荼羅は七百二十二尊からなり、密教の曼荼羅のなかで最も複雑である。
灌頂
カーラチャクラの灌頂は、大衆に公開して授けられることがある点で他の無上瑜伽タントラと異なる。ダライ・ラマ14世は世界各地でこの灌頂を授け、数万人が参加した。
関わる神格・伝承
配偶者はヴィシュヴァマーター。シャンバラの伝承と結びつく。
文化的足跡
シャンバラの伝説は、19世紀以降、西洋の神智学において「シャングリラ」の観念に影響を与えた。ジェイムズ・ヒルトン『失われた地平線』(1933年)のシャングリラは、この伝承の派生である。
なお仏教は今日も信仰されている生きた宗教であり、本項の記述はその尊格の伝承と図像に関する学術的な整理である。