イシュトリルトン
イシュトリルトン · 顔の墨 · Ixtlilton
「顔の墨」を意味するアステカの医術と癒しの神。神殿の黒い水を病気の子に飲ませて癒した。宴の神でもあり、家に招かれた祭司が踊りを率い、黒い水の壺の中身で主人の行いを占ったという。
解説
概要
イシュトリルトン(Īxtlīltōn)は、アステカ神話の医術と癒しの神である。名は「顔」を意味するイシュトリ、「黒い墨」を意味するトリリ、指小辞トンから成り、「顔の墨」ほどの意である。16世紀の修道士サアグンは、これを「小さな黒い者」と訳した。
信仰
サアグンの『ヌエバ・エスパーニャ諸事物概史』によれば、イシュトリルトンの神殿には、トリラトル(「黒い水」)を満たした壺が板や土の皿で覆って置かれていた。病気の子どもは神殿に連れて来られ、壺を開けてこの水を飲まされ、それで癒えたという。
イシュトリルトンは宴の神でもあった。宴を催す者は、神の装いをした祭司を家に招き、まず楽人と踊り手に食事と酒をふるまった。羽飾りを着け花を手にした踊り手を、イシュトリルトンの扮装の祭司が率いて踊った。そののち、主人の家に置いた黒い水の壺を祭司が開け、中に藁や髪の毛、炭のかけらなどが入っていれば、主人は姦通や盗みに耽る者、あるいは争いの種をまく者とみなされた。この神の像は描かれず、神の装束を着けた祭司そのものが神の姿とされた。
図像と象徴
黒く塗られた顔で表される。主画像は『ボルジア絵文書』の黒い顔の神を写したもので、イシュトリルトンとされている。
系譜と関係
宴と遊戯の神マクイルショチトルの兄弟とされることがある。サアグンの同じ書は、マクイルショチトルや宴の神オマカトルと並べてイシュトリルトンを記している。
なおメソアメリカの先住民の伝統は今日も継承されている生きた文化であり、本項の記述はその神格の伝承と図像に関する学術的な整理である。