テオニム THEONYM · 世界神話アーカイブ 神格を検索
グリフォン
PLATE — ΓΡΎΨ
HELLAS · ギリシア神話
ΓΡΎΨ

グリフォン

グリフィン · グリュプス · グライフ

Jastrow (2007) PUBLIC DOMAIN

鷲の頭と翼、獅子の胴をもつ幻獣。ギリシア人は前7世紀のアリステアスの伝聞を通じて、中央アジアの金を守り、片目の民アリマスポイと争う獣として知った。だが図像そのものは、それより千年以上古くオリエントに遡る。

01

解説

概要

グリフォン(古代ギリシア語: γρύψ / grýps、ラテン語: gryps)は、鷲の頭と翼、獅子の胴と後肢をもつ幻獣である。獣の王と鳥の王を継ぎ合わせた造形ゆえに、中世には力と威厳の極みと見なされ、古代以来一貫して「宝を守るもの」の役を負ってきた。

この獣には出自が二つある。図像としての鷲頭獣と、ギリシア人が語ったグリュプスは、別々の時間軸をもつ。 鷲の頭をもつ四足獣はオリエントで数千年にわたり描かれてきたが、ギリシア神話の文学が語る「金を守る獣」の話は、前7世紀に中央アジアから届いた伝聞に始まる。両者が合流したところに今日のグリフォン像がある。語源も定まらず、「鉤なりの」を意味する γρυπός との関連や、セム語からの借用とする説が並ぶ。

登場する物語

伝聞の運び手はプロコンネソスのアリステアスである。前7世紀、中央アジアのアルタイ地方まで旅したと伝えられるこの詩人は、イッセドネス人から聞いた話を叙事詩に書いた。詩そのものは失われたが、内容は前5世紀半ばのアイスキュロスとヘロドトスが引き写す形で残った。

語られるのは、辺境の金を守るグリュプスと、それを奪う片目の民アリマスポイの争いである。ヘロドトスによれば、グリュプスはアリマスポイよりさらに北に棲む。馬に乗ったアリマスポイが金を奪って駆け、グリュプスが追う——主画像に掲げたルーヴル美術館の赤絵ペリケー(ケルチ様式、前375〜350年頃)が描くのは、まさにこの場面である。

姿の描写は驚くほど乏しい。アイスキュロスはグリュプスを「吠えぬゼウスの猟犬」と呼んだだけで、この比喩から翼のない姿を想定していたとする説もある。翼と長い耳を明言した最初の著述家は1世紀のプリニウスで、同時代のテュアナのアポローニオスは逆に、真の翼はなく赤い膜の張った足で短く跳ぶだけだと書いた。パウサニアースは豹のような斑があるという説を紹介したうえで、驚異譚を好む者は話に尾鰭をつけるものだと釘を刺す。棲み処も定まらず、ヘロドトスとメラは北方のリパイア山脈の彼方、プリニウスはアイティオピア、クテシアスはインドに置いた。ヘロドトスがインドの金を集める蟻について書いた話と混線した形跡もある。アイリアノス(3世紀)を最後に、古代の著述家がこの獣について新しく語ることはなくなった。

図像と象徴

鷲頭獣の図像は文学よりはるかに古い。メソポタミアの円筒印章には前3000年頃から現れ、アッカドの印章では「獅子グリフィン」が天候神の車を曳き、火を吐く姿で刻まれた。エジプトではヒエラコンポリス出土の「二匹の犬のパレット」(前3300〜3100年頃)が最古級である。エーゲ海では中期ミノア期に現れ、クノッソス宮殿「玉座の間」の壁画(前15世紀)が名高い。

ところが、ギリシア美術がグリフォンを描き始めるのは前700年頃で、これらより千年以上遅い。新ヒッタイト美術の様式を取り込んだ「再発見」である。前7〜6世紀のサモスやオリュンピアからは、青銅の大釜の縁に付ける頭部飾り(プロトメー)が多数出土した。口を大きく開けて舌を見せ、額に瘤を戴き、耳の付根から二重の巻毛が垂れる——この巻毛はウラルトゥ美術の刻印であり、ギリシアの工房が東方の型を受け取ったことを物語る。

前肢を鷲の爪とするか獅子の足とするかは、12世紀に至っても揺れていた。決着をつけたのは紋章官である。紋章のグリフォンは獅子の後半身に、直立した耳をもつ鷲の頭、羽毛の胸、鷲の前肢と爪を組み、獅子なら rampant と呼ぶ立ち姿を、この獣に限って segreant と呼ぶ。

関係する神格・退治した英雄

グリュプスを退治する英雄はいない。この獣は倒される側ではなく、神の傍らに立つ側だった。ギリシアではアポローンと結びつき、赤絵陶器にはグリフォンに騎乗する姿が繰り返し描かれる。ディオニューソスがグリフォンの車に乗る図は、両神の習合を経てアポローンから借りた意匠である。

キリスト教はこの獣の二重性——天の鳥と地の獣——を、神性と人性を兼ねるキリストの徴として読んだ。ダンテ『神曲』煉獄篇で車を曳くグリフォンがその代表例である。ただし異説もあり、19世紀の美術史家ディドロンは、エラート・フォン・ランツベルクの『歓びの園』(1185年頃)の図像から、グリフォンが指すのは教皇座だと論じた。イシドールス『語源誌』が伝えた「馬を憎む獣」の像は、馬に乗って金を奪うアリマスポイの記憶が裏返ったものだろう。

文化的足跡

中世ヨーロッパでは、グリフォンの爪・卵・羽根が実在の宝物として流通した。爪は杯に仕立てられ、聖カスバートの聖廟の1383年の目録には爪二本と卵二個が載る。現存する「爪」はアルプスアイベックスの角、「卵」は駝鳥の卵、「羽根」はラフィアヤシの繊維に彩色した偽作だった。動物寓意譚がこの獣を実在の獣と並べて載せ続けたことが、その流通を支えている。

起源をめぐっては、古典民俗学者エイドリアン・メイヤーが、アルタイの金鉱へ向かうスキュタイの遊牧民がプロトケラトプスなど嘴をもつ恐竜の化石を見た記憶が像を形づくったと論じた。これに対しマーク・ウィットンらは、鷲頭獣の図像がオリエントに遥かに古く存在すること、ギリシア美術のグリフォンの解剖が獅子と鷲という生きた動物にそのまま基づくことを挙げて反論する。決着はついていない。

02

領分・別名

03

資料

Wikidata
Q130223 — 骨格データの出典
Commons
Griffins — 図像カテゴリ