ディスコルディア
ディスコルディア · Discordia
ギリシアのエリスに対応するローマの不和の擬人神。祭祀を持たず、文学的な存在にとどまる。調和の女神コンコルディアが神殿を持つのと対照的で、とりわけローマの内戦の象徴として蛇の髪と引き裂かれた衣で描かれた。
解説
概要
ローマ神話において、ディスコルディア(Discordia)は、争いと不和の女神であるギリシアのエリスのローマの対応者である。夜(ノクス)とエレボスの娘であった。エリスと同じく、ディスコルディアはパリスの審判への関与以外に神話を持たない。
その対極コンコルディアと異なり、ディスコルディアは祭祀の女神ではなく、単に文学的な擬人神であり、エリスと同じくとりわけ戦争における争いと不和に結びつけられた。とりわけローマの内戦と結びつけられた。
文学における像
ウェルギリウス『アエネーイス』第6巻では、冥界の入口に住む擬人神の一つとして、「蛇の髪を血の帯で束ねた狂気のディスコルディア」が挙げられる。第8巻のアエネーアースの楯の描写では、アクティウムの海戦の場面にディスコルディアが「引き裂かれた衣で喜んで」現れる。
ペトローニウスは『サテュリコン』のなかの内戦の詩で、ディスコルディアが冥界から現れて内戦を煽る場面を描く。蛇の髪、血に濡れた手、割れた歯——エリスの図像を継ぎながら、内戦の擬人像として独自の性格を与えられている。
図像と象徴
本サイトが掲げるのは、フィリップ・ハレの版画《ディスコルディア》である(16世紀)。
コンコルディアとの対が、この擬人神を規定する。調和には神殿があり祭祀があったが、不和には神殿がない。国家は調和を祀り、不和を祀らない。しかし文学は不和を描き続けた。
内戦との結びつきは、ローマ固有の展開である。ギリシアのエリスがトロイア戦争の発端であるのに対し、ローマのディスコルディアは共和政末期の内戦——同胞の争い——の象徴になった。
関わる神格・伝承
エリスに対応する。コンコルディアと対をなす。ノクスとエレボスの娘。
文化的足跡
20世紀の「ディスコルディアニズム」——不和を崇拝する諧謔的な宗教——は、この女神の名を掲げた。エリスの林檎(黄金の林檎)がその象徴である。