アパイアー
アパイア · アファイア · Aphaea
アイギーナ島の地方の女神。クレータのブリトマルティスがミーノースから逃れてこの島で姿を消したことに由来し、アルテミスと同一視された。その神殿はドーリス式の代表作である。
解説
概要
アパイアー(Ἀφαία、アパイア、アファイア)は、古代ギリシアの女神である。南ギリシアのアイギーナ島でもっぱら崇拝された。
祭祀はアテーナイにも入り、アルテミス・アパイアーの神殿があったが、本来はアイギーナ島の地方神である。古代ギリシアの地方神の多くと同じく、習合されてアルテミスやクレータ島の女神ブリトマルティスと同一視された。
神話・物語
古代の詩人や歴史家は、ブリトマルティス——クレータ語で「甘美な乙女」を意味する——がクレータでミーノース王らに追われ、のちアイギーナ島へ逃れて、そこでアルテミスの庇護のもとアパイアーの名で崇拝されたと記す。
アントーニーヌス・リーベラーリス『変身譚』第40章はこう伝える。ブリトマルティスはクレータ島から逃げてアイギーナ島で舟から跳び降り、小さな森へ逃げ込んだ。その地に、今日アパイアー女神の神殿が建つ森である。彼女は姿を消し(アパネース)、そのために島の人々はアパイアーと呼んだ。
パウサニアースも、アイギーナ島にアパイアーの聖域があり、ピンダロスがこの女神のために讃歌を作ったと記す。
図像と象徴
固有の図像は伝わらず、本サイトも主画像を掲げない。ただしアイギーナ島のアパイアー神殿(前500年頃)は、ドーリス式神殿の最もよく保存された例の一つであり、その破風彫刻——トロイア戦争を主題とする——はミュンヘンのグリュプトテークに収められている。
「姿を消した」という名の由来が、この女神の性格を示している。追われて逃げ、見えなくなった女神。ブリトマルティスがミーノースから逃れて海へ身を投げ、漁師の網に救われるという筋と、アイギーナでの消失が接続されている。
関わる神格・伝承
アルテミスとブリトマルティスに同一視される。アイギーナ島の地方神であり、汎ギリシア的な神話体系には固有の位置を持たない。
アイギーナの守護神として、アイアコスの王家とも結びつけられた。
文化的足跡
アパイアー神殿は、19世紀初頭にバイエルン王太子ルートヴィヒが破風彫刻を購入したことで広く知られるようになった。ギリシア彫刻のアルカイック期から古典期への移行を示す作例として、美術史上の重要な位置を占める。
日本語圏では、神殿の名として知られる一方、祀られていた女神そのものが説明されることは少ない。