アンチャンチュ
アンチャンチュ · アブチャンチュ · アンチャンチョ
ボリビアのアイマラ地域に発するアンデスの吸血鬼。無力な老人や裕福な女に変じ、助けようとした者の血を吸う。善意が罠になる構造を持つ。鉱山の「ティオ」信仰と結びつき、植民地期の搾取の記憶を反映するとされる。
解説
概要
アンチャンチュは、南米ボリビアのアイマラの人々の地域を中心に伝わる、血を吸う悪しき存在である。助けを求める年老いた旅人や、裕福な女性、魅力的な外国人の女性などに姿を変え、助けようと近づいた人の血を吸って死なせるという。善意につけ込む存在であり、鉱山や洞窟、人通りの少ない道に住むとされる。植民地支配の時代の搾取の記憶と結びつけて論じられてきた伝承の一つである。
なお本サイトの分類では、インカ/アンデスの体系に含めて扱う。
善意につけ込む
アンチャンチュは、助けを必要とする者の姿をとる。年老いた無力な旅人、金歯を見せる裕福なアイマラの女性、人を惑わす外国人の女性、あるいは恐ろしい獣の姿で現れる。通りかかった人が手を差し伸べると、アンチャンチュはその人の血を吸い、失血や病によって死なせてしまう。助けようとする善意が、そのまま罠になるのである。洞窟や廃墟、鉱山、人の少ない道に住み、渦を巻く風とともに現れるとされる。
鉱山の地下の主
ボリビアの鉱山地帯では、アンチャンチュは鉱夫たちの恐れる存在である。ポトシの銀山では、坑道のなかに「ティオ」(叔父)と呼ばれる像が置かれている。角と赤い顔を持つ悪魔の姿で、鉱夫たちはこれにコカの葉や酒、煙草を供える。地下の富を支配する者に許しを乞わなければ、鉱石は得られず、事故が起こると考えられているのである。ティオはキリスト教の悪魔の図像を借りているが、その働きはアンデスに古くからある「地下の主」の考えに基づいている。植民地時代の強制労働のなかで形づくられた信仰であり、征服以前にはさかのぼらない。
外から来る者への恐れ
アンデスには、血や脂を奪う存在の伝承がいくつもある。白人や外国人の姿をして、人の脂を奪うピシュタコもその一つである。こうした伝承は、征服者による搾取の記憶と結びつけて論じられてきた。助けを装って近づく者や、外国人の女性というアンチャンチュの姿にも、外から来る者への恐れが映し出されている。
図像と象徴
本サイトが掲げるのは、アンチャンチュを表した図である。
関わる伝承
ピシュタコとともに系列をなし、ティオと鉱山の信仰にかかわる。
文化的足跡
ボリビアの鉱山でのティオへの信仰は、今日も続いている。鉱夫の安全を祈る営みとして、映画や民族誌に繰り返し記録されてきた。
なおアンデスの伝統は今日も継承されている生きた文化であり、本項の記述はその伝承に関する学術的な整理である。