EARTHQUAKE
地震神
地震を司る神々のファセット。天災のうち、地震だけは前触れがなく、逃げる場所がない。多くの体系がこれを「地下で何かが動いた」と説明し、その何かに名を与えた。神が揺らすのか、縛られた者が身動きするのか、支える獣が暴れたのか——説明の型は分かれる。
LECTIO — 解説
ギリシアのポセイドーンは、海神として知られるより先に「大地を揺るがす者」(エネシダーオーン、古典期のエンノシガイオス)だった。ミュケナイ時代の線文字B文書ではピュロスの主神の位置にあり、海との結びつきを示す証拠は乏しい。三叉戟で岩を打って泉を湧かせ、敗れればアッティカの平野を洪水で襲う。海はあとから来た領分である。北欧のロキは、縛られて毒を滴らされ、その痛みに身をよじるたびに大地が揺れるとされる。ここでの地震は神の力ではなく、罰を受けた者の苦痛の副産物である。日本では地下の大鯰が暴れると地震が起こるとされ、鹿島の神(タケミカヅチ)が要石でその頭を押さえていると語られた。安政の大地震のあとに大量に刷られた鯰絵は、この観念が19世紀まで生きていたことを示す。マオリのルアウモコは母の胎内に留まった末子で、その寝返りが地震になる。
図像は成立しにくい。地震そのものを描けないため、造形は「押さえる側」へ向かう。要石と鯰、縛られたロキと毒を受ける妻シギュン、三叉戟を振り下ろすポセイドーン。動作が図像になり、原因は地下に隠れたままである。
注意すべきは、地震神を単一の型に還元しないことである。ポセイドーンは能動的に揺らす神、ロキは受動的に揺らしてしまう者、大鯰は神ですらなく押さえられる対象である。「地震の神」という名札が同じでも、その社会が地震を誰の責任と考えたかは正反対でありうる。似ているのは現象であって、神学ではない。