ヘーロー
ヘーローとレアンドロス · Hero · Hērō
ヘレースポントスのセストスに住むアプロディーテーの女神官。対岸のレアンドロスが毎夜海峡を泳いで会いに来たが、嵐の夜に灯火が消えて溺れ死に、彼女も塔から身を投げた。
解説
概要
ヘーロー(Ἡρώ)は、ギリシア神話の人物である。ヘレースポントス——現在のダーダネルス海峡——のヨーロッパ側セストスの塔に住むアプロディーテーの女神官で、対岸アビュドスの青年レアンドロスとの物語で知られる。
神話・物語
レアンドロスはヘーローに恋し、毎晩彼女に会うためにヘレースポントスを泳いで渡った。ヘーローは塔の最上階に灯火を掲げて恋人を導いた。
ヘーローは、レアンドロスの快い言葉と、「アプロディーテーは愛の女神なのだから処女崇拝など軽蔑するはずだ」という主張に折れて、その愛を受け入れた。
この日課は暖かい夏のあいだ続いた。しかしある冬の嵐の夜、風が塔の灯火を吹き消し、方向を見失ったレアンドロスは波に呑まれて溺れ死んだ。翌朝、岸に流れ着いた遺体を見たヘーローは狂乱し、恋人の後を追って塔から海へ身を投げた。
この物語は、5世紀末の詩人ムーサイオスの小叙事詩『ヘーローとレアンドロス』によって最もよく知られる。オウィディウス『名婦の書簡』第18・19書簡も、二人の往復書簡の形でこれを扱う。
図像と象徴
固有の図像は伝わらず、本サイトも主画像を掲げない。ただしルーベンス、ターナー、レイトンをはじめ、近世以降の絵画には数多くの作例がある。
灯火が、この物語の要である。夜ごとの灯りが恋人を導き、その灯りが消えたときに恋人は死ぬ。海峡という障壁と、それを越える唯一の手がかりとしての光。
女神官が処女の誓いを破るという設定も見逃せない。アプロディーテーに仕える者が、アプロディーテーの名において誓いを破る。
関わる神格・伝承
アプロディーテーの女神官。恋人はレアンドロス。
ヘレーが落ちて溺れた海峡——ヘレースポントス——が、再び溺死の舞台になっている。同じ海峡に二つの溺死譚が配されている。
文化的足跡
バイロンは1810年、レアンドロスに倣ってヘレースポントスを泳いで渡り、その体験を詩に書いた。物語の舞台を実地に再現した例として知られる。
日本語圏では、「ヘーローとレアンドロス」として、恋人が海を泳いで渡る話が紹介されることがある。